2009年6月23日

 

第110期定時株主総会 事業報告

日産自動車株式会社
取締役社長兼CEO カルロス ゴーン
取締役兼COO 志賀 俊之



<カルロス ゴーン>
ご存知のように、世界的な金融危機と景気後退はグローバル自動車産業を含め、あらゆる産業の経営環境を圧迫しています。今回の危機は健全な企業もそうでない企業にも例外なく影響を及ぼし、各社は対応を迫られています。私どもは、業績回復に集中するべく、2月に5ヵ年計画である日産GT2012の一時中断を決定しました。危機が当社の成長戦略を中断させたものの、日産は速やかに態勢を立て直し、経済環境の急激な変化に対処しています。チーフ・リカバリー・オフィサーの指揮のもと、リカバリー・プランを実行しております。

本日は厳しい現状を踏まえた対応の状況と、危機が去った後も競争力を維持するための計画について、COOの志賀よりご説明いたします。

<志賀 俊之>
2008年度のグローバル販売台数は341万1,000台となり、前年度から9.5%減少しました。特に、第4四半期には、グローバルな全体需要が急速に悪化する中、当社販売は前年同期比で26.3%落ち込みました。

2008年度通期では、北米と中国を中心に市場シェアを拡大した一方、欧州は横ばい、日本ではシェアダウンとなりました。結果、グローバル・シェアは前年度並みの5.5%でした。

2008年度は積極的な新車投入を行い、370Zやキューブ等、グローバルで8車種の新型車を発売しました。

また、日産車は数々の賞や高いランキングを獲得しました。フラッグシップスポーツカーのNISSAN GT-Rは米国の2009年ワールド・パフォーマンス・カー・アワード、英国のパフォーマンス・カー・オブ・ザ・イヤー、日本カー・オブ・ザ・イヤーの特別賞「Most Advanced Technology」等、数多くの賞に輝きました。

世界中でいただいた賞は、マスコミ、専門家は勿論、お客さまに評価いただいた証だと考えております。それぞれの市場で日産車がどう評価されているかを知ることは大切であり、お客さまの声に真摯に耳を傾けることは非常に重要であると考えています。お褒めのお言葉も、お叱りも私どもにとっては貴重なご意見です。お客さまの声を通じて、当社の強みと、改善すべき点が分かるからです。ではここで、お客さまからいただいたご意見の事例を3件紹介させていただきます。

  • アメリカのお客さまからはムラーノの修理・整備について、「お陰で新車みたいに調子がよくなった」とお褒めの言葉を頂戴しました。
  • 日本でキューブをお買い求めいただいたお客さまからは、祝日でお店の多くが休業している中、お客さま相談室のスタッフの親身な対応で、問題が解決したと嬉しいお便りをいただきました。
  • また、英国でナバラにお乗りのお客さまから、「部品を注文したら、1〜2週間かかる、と言われた。この件に対する日産の対応には、ひどく失望した。」とのお叱りを頂戴しました。お客さまには、日本から輸送される一部の部品は多少時間がかかることなど、そのプロセスをご説明申し上げましたところ、ご納得いただけましたが、お客さまの身になって考え・行動することが大切であると改めて実感しました。

私どもは、常にお客さま第一を心がけながら、たゆまぬ改善を目指しております。お客さまの声に耳を傾け、適切な対応に日々努めております。お客さまに、日産車とサービスにご満足いただき、更に新規のお客様にも、当社の商品をお選びいただきたいと考えております。

2008年度は11にのぼる新技術を導入しました。世界で最も厳しい排気規制をクリアするクリーンディーゼル車の投入や、低コストとクリーンな排気を実現する超低貴金属触媒、中国のスターウイングスという新しいルートガイダンスナビ、等の新技術を商品化しました。

2008年度の財務実績については、連結売上高は8兆4,370億円、連結営業損失は1,379億円となりました。

連結当期純損失は2,337億円です。

単独決算の詳細については、お手数ですがお送りしました第110期報告書をご参照ください。

配当金については、2008年度は一株当たり11円の中間配当をお支払いしました。しかしながら、収益の悪化とマイナスのフリーキャッシュフローを鑑みて、年度末のご提案は見送らせていただきました。

2008年度の売上高は22%の減、生産台数は16%減と、それぞれ前年に対し減少しました。景気の翳りが最初に見えた時点で、当社は迅速に対処し、キャッシュ確保と利益改善を目的とした複数の取り組みに着手しました。

全体需要の落ち込みに応じて、生産台数を調整するべく体制を見直し、休業日の設定や稼働時間の短縮等、世界中の車両とパワートレイン工場で対策を実施しました。その結果、2008年度のグローバル生産台数は計画台数に比べ77万2,000台減となり、20%減少しました。

当社は速やかにグローバル在庫の抑制に対処しました。2009年3月末の在庫台数は47万台と前年度末を26%下回る水準に抑えました。更に今後も販売、在庫、生産台数のバランスを慎重に図っていきます。

では2009年度の見通しについてご説明いたします。2009年度のグローバル販売台数は前年比9.7%減の308万台を見込んでいます。

2009年度にはグローバルで8車種の新型車を発売します。投入順にその一部をご紹介致します。

  • 日本には5月にグローバルな小型商用車であるNV200バネットを投入しました。
  • 欧州市場には低CO2排出量のピクソを投入します。
  • 米国にはG37コンバーチブルと370Zコンバーチブルの投入が予定されています。
  • 日本にはフーガに続いて新型軽乗用車を発売します。
  • 中東には新型パトロールを投入します。
  • 新たなグローバルエントリーカーを2009年度末のアジア向けを皮切りに、順次投入します。


先進技術の開発にも引き続き取り組みます。2009年度には17の新技術を商品化する予定ですが、その一部をご紹介致します。

  • アクセルペダルの反力を使ってエコドライブをサポートする「エコペダル」
  • 隣接レーンの車両を検知してドライバーの運転操作を支援する「サイド・コリジョン・プリベンション」
  • さらに安心してスマートに駐車できるよう支援する「駐車ガイド付きアラウンドビューモニター」


今年度は研究と先行開発予算の内、70%を環境に配慮した技術に充当しています。中期環境行動計画である「ニッサン・グリーンプログラム2010」の取り組みは順調に進んでいます。一例を紹介しますと、2007年度にはCVT搭載車を100万台販売する目標を達成しました。2008年度にはエクストレイルのクリーンディーゼル車を予定通り発売し、2010年春には同車のオートマチック車も追加投入する予定です。2009年度には、日本国内でNissan ECOシリーズと銘打って、エコカー減税の対象となる16車種の販売促進活動を行っています。

以上の見通しに基づいて、5月12日に2009年度の業績予測を東京証券取引所に届け出ました。連結売上高は6兆9,500億円。連結営業損失は1,000億円。連結当期純損失は1,700億円を見込んでいます。

危機は依然として続いています。市況は不安定です。複数の大きな課題に対処しなくてはなりません。しかし、日産の従業員は団結し、リカバリー・プランの遂行に全力を注いでいます。リカバリー・プランには主として二つの目的があります。可能な限り早くフリーキャッシュフローをプラスにすること、及び連結営業利益を黒字化することです。

日産は危機を乗り越えるために、可能な限り現実的且つ即応性のある態勢で、日々の事業運営にあたっています。では短期的な取り組み状況についてご説明致します。

まず最初に、私どもはキャッシュ確保を目的とした対策に力を入れています。

2008年度末現在のグローバル在庫は7,350億円となりました。2009年度下期の販売台数は2008年度下期を上回る見込みですが、2009年度も在庫水準を前年並みに維持するべく、新車のみならず、中古車、部品、原材料も対象に在庫管理を徹底します。

設備投資は前年比9%減の3,500億円に抑えます。その内、50%は新車に割り当てます。

次に利益改善のための対策についてご説明致します。

売上高の減少幅に合わせて、原価低減を進めなくてはなりません。モノづくりコストの削減は、リカバリー・プランで最大且つ最も重要な役目を果たします。現在、サプライヤーの協力も得て、具体的な実行計画を策定しています。具体的な取り組みとして、次の4つの行動計画を紹介します。

  • 部品当りの生産量を平均で二倍に引き上げ、部品種類を2012年度までに50%削減することを目標とします。
  • また、コスト競争力のある国々からの調達を拡大し、徹底するべく、現地のサプライヤーと協力の上、調達先のモノづくり力の向上を図っています。
  • 新車の原価低減活動も加速します。研究開発をはじめとする上流工程から着手し、調達の決定において早期の段階でコスト解析を行います。
  • 最後に、サプライチェーン全体を通してキャッシュアウトを最小限に抑えるための在庫管理を徹底しています。


モノづくりコストの削減は、日産リバイバルプランを成功に導いた鍵でした。このリカバリー・プランにおいても同様です。

また、当社は為替レートの変動の影響を極力抑える取り組みも実施しています。車両、パワートレイン、内製部品の海外生産を対象とした複数の計画策定を進めています。2009年度には、海外生産台数を7万台増やし、最小限の投資で既存の生産能力を活用します。

同時に、国内工場の競争力強化に注力し、国内の生産台数は100万台レベルとなります。日本は日産の本拠地であり、当社のグローバル事業の拠点であり続けます。本拠地である日本に注力し、国内工場の競争力を維持するべく、引き続き強化していきます。

グローバルな市場占有率を伸ばしながら、マーケティングの固定費を2008年度から22%削減します。中国等、5台の内4台が初めてクルマを購入するお客さまである新興諸国に対し、重点的に攻勢をかけていきます。

私からは以上です。続きまして、CEOのカルロス・ゴーンより2009年度とそれ以降の計画についてご説明させていただきます。

<カルロス ゴーン>
今回の危機で、日産を含む全てのグローバル自動車メーカーは、長期的な目標達成と、当座の厳しい環境対応のバランスをとり直すことが迫られています。私どもの長期的な財務目標は売上と利益を増大させると同時に、売上高営業利益率を伸ばすことです。当座は、危機対応を優先します。

さて、何をもって危機が過ぎ去ったと判断すればよいでしょうか?
判断基準は二つあります。

一つはグローバル市場の減少に歯止めがかかった時。
もう一つは当期純利益がプラスに転じ、その水準を維持する目処がついた時です。

グローバル経済で信用収縮が改善しない限り、フリーキャッシュフローを先行指標としますが、当面の課題に取り組むことで、将来のビジョンを犠牲にすることはありません。私どもは短期と長期目標のいずれにも照準を合わせ、現状に対応すると同時に、産業の大きな変化に備えています。

私どもは、ゼロ・エミッション車でリーダーになることを目的とした戦略を進めておりますが、電気自動車や燃料電池車の開発はその一環です。まずは電気自動車の発売が控えております。電気自動車は、2010年秋に追浜工場で立ち上がりますが、他の地域での生産も検討しています。まず年間5万台規模から生産を始め、2012年度の量販に向けて台数を拡大していきます。電気自動車のモーターは横浜工場で生産し、インバーターは当初、座間で生産します。

電気自動車の中核技術にあたる、日産のラミネート構造を採用したコンパクトリチウムイオン電池は、座間にある関係会社のオートモーティブエナジーサプライ株式会社(AESC)で生産しています。日産は長年に亘り電気自動車の開発に取り組み、17年以上の活動の成果によってリチウムイオン電池を開発しました。従来型のリチウムイオン電池と同等の質量でありながら、高い信頼性と性能を誇るこの次世代ラミネート型バッテリーセルは2倍の出力とエネルギーを実現します。つまり、従来の半分のサイズで、同じ量のエネルギーを蓄えることができるのです。

8月2日には、日産の新型電気自動車を、新しいグローバル本社の竣工式に合わせてマスコミに公開し、皆様には10月の東京モーターショーでお披露目いたします。私どもが自信をもってご提案するこの画期的な技術を搭載したコンセプトカーを、皆様にご覧いただけるのを楽しみにしております。

品質領域でリーダーを目指す活動も全社的な目標の一つです。社内指標は改善を示しており、製品品質とサービス品質の向上を目指した活動は、第三者機関による調査結果でも心強い成果を生み出しています。

私どもは品質領域でリーダーとなり、お客さまのご信頼を勝ち取るべく、力を尽くしています。

通常の商品ラインアップの刷新に加えて、当社は手ごろな、燃費の良いエントリーカーの投入計画にも注力しています。最近の現場視察を通じて、このプラットフォームを採用する商品群は、年間100万台の販売が期待でき、会社の重要な柱の一つになる手応えを感じております。これらのクルマは欧州、日本、インド、タイ、南アフリカ、中近東等150カ国以上で販売し、インド、タイ、中国等、5カ国で生産を行う予定です。成功の鍵は、一貫した高品質と、競争力のある手ごろな価格の両立です。私自身、最近試作車に乗ってみましたが、これはBセグメント車に匹敵する広さ、技術、快適性と、グローバルなエントリーセグメント車の燃費と維持費を両立させています。

日産は新興諸国の経済成長が回復して、需要が戻った暁には、再び成長できる態勢が整っています。

  • 今月初めに、ロシアのサンクトペテルブルグで新工場の操業を開始しました。式典では、プーチン首相が、オフラインした最初のクルマ、ニッサン ティアナに試乗されました。日産にとって、ロシアは重要な市場であり、欧州では最大、そして世界では5番目に大きな自動車市場です。ロシア政府の力強いサポートと、当社の最新の工場の立ち上げに懸命に取り組んできたロシアの従業員のやる気は心強い限りです。
  • インドのチェンナイ工場は2010年に操業を開始し、新型のグローバルエントリーカーが立ち上がります。その準備は予定通り進んでおります。
  • ブラジルでは、リヴィナ・シリーズと、フレックス燃料対応のティーダ、セントラを2009年に発売します。
  • 中国では、小型商用車事業が成長を続けています。十堰(じゅうえん)の新しいエンジン工場が既に稼働しています。2009年中旬にはNT400キャブスターを投入します。2010年には鄭州の組立工場が立ち上がります。
  • 中東では全体需要が4%増加する中、当社の販売台数は12%拡大しました。2009年度末に発売予定の新型パトロールで、日産は大型SUVセグメントの新境地を開くことになるでしょう。


日産ブランドは世界的に名が通っており、当社は販売しているあらゆる市場をリードする企業の一つになりたいと考えています。

最後に、私どもの卓越した競争優位性を支えるルノーとのアライアンスについてお話し致します。私どもには、10年に亘る確かなパートナーシップ、ルノー・日産アライアンスがあります。ルノー・日産アライアンスは合従連衡の真っ只中にある自動車業界で他に類のない、意義深い取り組みです。現在、多くの自動車メーカーが規模の経済を求めていますが、日産とルノーには既に十分な規模が備わっています。両社の総販売台数は1999年の490万台から2008年には(アフトヴァズ社を含めて)690万台に伸びました。2008年の公式データによると、今やルノー・日産アライアンスは世界で第三位の自動車グループです。

ルノー・日産アライアンスはシナジー効果をさらに強化し、一段高いレベルに拡大しようとしています。私どもは、2009年度に1,800億円に上るフリーキャッシュフローを生み出すシナジー活動計画を策定しました。利益改善、コスト節減、コスト回避策を研究開発、車両開発、パワートレイン開発、研究、先行開発、生産、物流、購買、小型商用車、販売・マーケティング、情報システム、そしてサポート機能の分野で実施し、1,800億円を生み出します。既に少人数から成る専任チームを発足し、シナジー効果創出の加速化に集中することで、より多く、より有効に、より速く取り組みを進めます。

以上のように、日産は、アライアンスや本日ご説明しましたあらゆる取り組みを通して、お客さま、従業員、パートナー、そして株主の皆様を含む全てのステークホルダーに、より大きな価値をご提供することを目指しております。

繰り返しになりますが、配当政策については、世界的に競争力のある配当水準が日産の戦略であり、株主の方々との関係においても重要な鍵だと考えています。条件が整い次第、復配を実施します。

日産の従業員は世界中の職場で積極的に変化をもたらしています。この5年間、私どもの持続可能性と多様性を目的とした力強い取り組みは評価されてきました。また、日産は責任ある企業市民としてのイニシアチブである国連グローバル・コンパクトに参加しています。

日産は教育、環境、人道支援を中心に、様々な実際的な形で社会に還元しています。例えば

  • 「2050年の世界にあなたはどのように生活しているか」をテーマとするザ・サイエンス・オブ・サバイバルの企画展示では、環境技術展示を通じて、世界中の人々に環境技術の情報を発信しています。
  • わくわくエコスクールとモノづくりキャラバン等の活動では、子供たちに環境やモノづくりの楽しさを学ぶ機会を提供しています。
  • アジアで開催中のイベント、日産テクノロジースクエアでは、来場者の方々に、日産の革新技術と、未来のクルマを体感いただけます。
  • また米国では、住居がなく困っている方向けに、ハビタット・フォー・ヒューマニティとの協力のもと、日産の従業員が家屋の建築活動に参加しており、対象者が既に入居しています。
  • 更に、当社はサイクロン、地震、火災等の自然災害の被災地に寄付を行っています。


私どもの持続可能性を求める取り組みは、多くの人々の生活に関わっています。詳細は本日よりホームページに掲載される最新のサステナビリティレポートをご参照ください。

株主の皆様は、日産のあらゆる活動と成果のパートナーです。私どもはこれからも環境変化に対応し、人々と世界のニーズにお応えする、確かな、責任ある自動車メーカーであり続けることを目指しております。これまでの皆様のご支援・ご協力に心から感謝申し上げます。今後とも日産をどうぞよろしくお願いいたします。

以上