“TAKUMI”プロジェクト

受け継がれ磨かれる、TAKUMIの技術とスピリット1:45

受け継がれ磨かれる、技術とスピリット

自動車の開発過程に欠かすことができない、クレイモデル。それを制作するのが、クレイモデラーです。デザイナーの意図を理解して、精巧なモデルを作る彼らは、常に技術を向上し、感性を磨くことが求められています。日産自動車では、彼らの力を最大限伸ばすためのプロジェクトを長年にわたって続けています。

クレイモデラー達を成長させる“TAKUMI”プロジェクト

デザイナーが描いた二次元のスケッチに、法規要件、製造要件を織り込みながら、クレイと呼ばれる工業用粘土で、三次元の内・外装モデルを仕上げるのがクレイモデラーの仕事。
そこには“デザイナーの意図を汲みとる感性や想像力”、“立体へ変換させる表現技術”が求められます。
日産のデザイン本部で20年以上続けられている“TAKUMI”プロジェクトでは、そんなクレイモデラーたちの感性・技術の向上を目的とし、普段の仕事から数ヵ月間離れ、いつもと違うメンバーといつもとは異なるクレイモデルの制作に取り組みます。
今回は入社数年の若手から勤続30年以上のベテランまで、7名のモデラーが選ばれ、制作に挑みました。

対象物を徹底的に研究し、表現には妥協のない挑戦を

彼らが掲げたクレイモデルのテーマは『挑戦』。「クレイモデラーである我々の技術への挑戦を、アスリートの記録への挑戦と重ねました」と語るのは“TAKUMI”リーダーの柚木春生。
しかし、そこにはいつもあるはずの、制作の基となるデザイナーのスケッチはありません。
「短距離走者の筋肉の動きを写真や映像で徹底的に研究し、メンバー自らがスケッチを描いて、グループ内で意思統一を図りました」と柚木。「表現すべきは、跳びだす瞬間の人体における“骨格のバランス”と“エネルギーを最大限含んだ筋肉” “緊張し合う筋や腱”、そしてアスリートが発する“圧倒的な緊張感と空気”でした」

作業はまず、実寸の1/4程度の小さなモデルを作り、最終形をイメージしながら全体の構成を練ります。その後作ったモデルを測定、芯となる鉄骨を設計し、1/1モデルを作っていきます。
ここで問題となったのは、大きく前のめりになったアスリートの重心バランスをどのようにとるか、ということ。どこかに支柱が見えてしまっては、モデルの良さを台無しにしてしまいます。
議論の末、厚さ20mmの透明アクリル板を使い、支えとしての存在感を消すことに。結果として、その仕組みに気付いた人をハッとさせる演出の1つにもなりました。

チャレンジスピリットが生み出すクリエイティビティ

実物大でのモデル制作に入る段階で、入社9年目の若手、前幸宏が作業リーダーとなりました。若手にこの重職を与えるのは、“TAKUMI”プロジェクトが技術の修得のみならず、後継者の育成という重要な側面も持っているためです。
前は「実物大モデルで目指したものは“静”ではなく“動”。作り込みに粗密のコントラストをつけることで、躍動感を際立たせました」と語ります。また、モデルを作る過程で、メンバーにひとつのアイデアが。日産が誇る『GT-R』を暗喩的に用いて、“靴にトランスフォームした『GT-R』を履いてスタートを切る、世界最速のアスリート”という世界観を表現しようというものです。プロジェクト内で最も若手の石丸嵩將は「ただ作るのだけでなく、作品の持つ背景まで考えて作るクリエイティビティを実践することができました」とこのプロジェクトを通しての実感を語ります。

「人体は少しでもバランスが崩れると、人に見えなくなってしまう。工業製品にはない難しさがありました」約一ヵ月かかって実物大モデルがようやく完成し、前はプロジェクトを終え、こう振り返ります。「日産のクレイモデラーは、常にチャレンジ精神を持っています。何かに“挑む”このスピリットが無ければ、新しいモノは出来上がりません。そんな我々のチャレンジスピリットを、クレイモデルに最大限表しました」
『挑戦』、それは日々「日産らしさ」を追求するモデラーの中に、常に存在するテーマでもあったのです。