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日産 童話と絵本のグランプリ
第35回(2018年度)入賞作品
第35回絵本の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

こがらしの日は
作・絵/松丘 コウ

 


「うっ、さむ!」
その日は 雲がどんより重くて 今にも雪が降りそうでした。
帰ったら ほかほかのみるく、飲もっと。
ぴのちゃんは 学校を小走りで出ました。すると 少し行った先の草の茂みで 猫が寝ています。
「えー どうしてこんな所で寝ているの?
今日は寒いのに。
毛皮着てるから 寒くないのかなあ・・」
ねこの背中にそっとふれると ひんやりしていました。
「ダメだよ、こんなところで寝ていたら 風邪ひくよ。」
声をかけても 猫はピクリともしません。
まさか、死んでいるのかしら
「ねこさん、ねこさん!」
猫の背中をさすりました。すると


「ひどいなあ、私、死んでないし」
猫はゆっくりと ちょっとだけ目を開けて言いました。
「帰る途中で 寒くて動けなくなっちゃって、はっ、はっ、はっくちん」
顔中を口にして くしゃみをしました。
「ねこさん 毛皮を着ているのに寒いの?」


「ええ、とても。
だってこの毛皮 見た目はあったかそうだけど ほんとは夏物なんだもの。」
「夏もの?」
「うん、メッシュになっていて スウスウするの。実はね、ここのところ寒いから 焚き火をして
いたんです。そしたら あったかくて気持ちよくて ついつい日に近づきすぎて背中に大きなおこげを作っちゃったんです。


去年の冬服は 小さくてもう着れないし、だから新しいのができるまで 夏用の毛皮を着てるんです。
はっくちん、はっくちん
猫は続けざまに また大きなくしゃみをしました。
「おお、寒い・・・・そうだ!」
と、猫は何か思い出したように 言いました。
「あのう  ご相談なんですけど・・・
そのコート、私に貸してくれませんか?」


コートは1着しかありません。
どうしよう、もじもじしてると
「やっぱり ダメですよね。ごめんなさい、図々しいお願いをして。」
くっちん、くっちん、はくちん
猫は石の上へ戻って行きました。
「あっ、あのね、このコートは貸してあげられないけど、他のセーターとかなら、貸してあげられるよ。 よかったら、うちへ来ない?」


「そんなに遠くないのよ」
猫はぴのちゃんの後ろから ついてきました。
ぴょこ・・たん  ぴょこ・・たん
でも ガタガタ震えて 右足と左足が 一緒に出てしまっています。
「あの・・足が言うこと聞かなくて」
猫は消え入りそうな声で言いました。

「そうだ!いいことがある、おとなしくしててね」  ぴのちゃんは 猫を抱き上げると


すぽっと コートの中に入れました。
「ほら、こうするとね、あったかいのよ。
私のお父さんも 寒い時 コートの中に入れてくれるの。」
猫は ぴのちゃんの中で ゴロゴロ喉を鳴らしました。
白いものが ひらひら降ってきました。
でも 二人一緒だから ピノちゃんも猫も ほっかほか。


ぴのちゃんは家へ着くと 台所へ走って行ってみるくを作りました。
猫は 白い湯気の立つみるくをふうふうさせながら飲んで 3杯もおかわりをしました。
「せっかくだから 好きなの選んでいいよ。」
ぴのちゃんがそう言うと
「うわあ、いいんですか?」
嬉しそうに しっぽをグルングルンさせました。


「これは?  うーん、これは?
次から次へ着てみました。
「人間のお洋服って ボタンとかいろんなものがついてるんだなあ。
猫の洋服はね、体にくっついちゃうんですよ。」


「好きなの、選んでいいんですよね、
それじゃあ、その、君の着ている白いセーターがいいです。
一度、白い猫になってみたくって。
僕のかあさんも白い猫だから、おそろいで歩きたいんです。」
ちょっとびっくりしたけれど ぴのちゃんは白いセーターを貸してあげました。
「ありがとう、春みたいにあったかです。」
猫はスキップしながら 帰って行きました


あとからあとから 雪が降ってきます。
庭の垣根もヒマラヤスギも 綿帽子をかぶって真っ白です。

うふふ、あの猫、どうしてるかな。
もう 寒くないって遊んでるかな。それともお母さんと お揃いで歩いてるのかな。
もっと もっと 雪よ触れ
もっと もっと 寒くなれ


月曜の昼下がり
ぴのちゃんが学校から帰ってくると
白いセーターをもって猫が待っていました。
待ちくたびれてぼうっとしていましたが ぴのちゃんを見つけると ばあっと顔が明るくなりました。
「セーター、ありがとう。」
セーターには猫じゃらしをリボンで結わえたブローチがついていました。

猫は2、3歩下がると くるっと回って見せました。
「どうです?新しい毛皮いいでしょう」
うーん、夏の毛皮と同じみたいに見えるけどな。
ぴのちゃんの心を見透かしたのか 猫はふふーんと鼻を鳴らして言いました。
「この毛皮、ただの毛皮じゃないんですよ、ちょっと待っててください」


猫はお腹のあたりを ごそごそ探りました。
「あれっ、あれっ、まだ慣れてなくて。
このへんだったと思ったんだけど
うーんと、うーんと あっ、あったあ」
チャックみたいなのが見えます。
猫は それをチューっと引っ張ると たったったーとぴのちゃんのそばに駆け寄って


すぽっと ぴのちゃんにかぶせました。
「きゃあ」
「大丈夫ですよ、ほら、私の毛皮の中です。あたたかいでしょ。あの日、こうしてもらって とても嬉しかったから、私の毛皮でもできるようにしてもらったんです。
説明するのが 難しかったけれど なんとかなりました。
ね、あたたかいでしょ、いいでしょ、
私の毛皮」


「あたたかいね」
「でしょう」
「軽くて、ふわふわ、もふもふだあ」
「でしょ、でしょ」
「今度 貸してよ」
「そ、それはちょっと・・1着しかないから」
猫は頭を掻きました。
「でも、いつでも中に入れてあげますよ」

ゴロゴロ、ゴロゴロ ゴロゴロ ゴロゴロ
猫の音が いつまでもしています。
木枯らし吹いて寒いけど 二人一緒だから ぴのちゃんも猫もほっかほかです。



松丘 コウ
主婦 静岡県函南町
<受賞のことば>
やっとスタート地点に立てました。このような機会を設けてくださった様々な関係者の方々に感謝申しあげます。

短評
まず絵に惹かれました。ソフトな色彩と文字をレイアウトするための大胆な構図。主人公と猫は会話する心情を表情豊かに表現されています。おはなしの進行には思いがけない展開があり、ページを送る楽しみがありました。
(黒井 健)


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