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日産 童話と絵本のグランプリ
第31回(2014年度)入賞作品
第31回絵本の部・優秀賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

満月の夜に。
作・絵/仙波 るい、望月 恭子


満月の夜にだけオープンするお店があります。
ひと月に一度だけ、とびきりに明るく照らし出されたそのお店には、遠い山からも深い森からも、なにかに誘われるように、たくさんの動物たちがやってきます。


一番最初にやってきたのは、きつねの親子。大きなしっぽをゆさゆさゆらして、声をそろえてこう言うのです。
「こんばんは、満月の夜、ごきげんよう」
店主のうさぎが応えます。
「こんばんは、満月の夜、ごきげんよう。しっぽもゆさりと美しいあなたに、今日は何をさしあげましょう」
「森はすっかり冬じたく、何かあたたまるものを買いにきました」


「それではこちらの手袋はいかがでしょう」
うさぎが白い手袋を差し出します。すると、子ぎつねがこう言いました。
「手袋ならもっているの。お母さんが赤い手袋編んでくれたから」
うさぎはなるほどとうなずき、それではとマフラーを取り出しました。
「これは最近流行りの色のマフラーです。満月の日の特別価格でおわけします」


今度は母きつねが言いました。
「きれいな色、血のような赤い色。でもマフラーは首もとしか、あたたかくなりません。それより、おいしい、そうたとえばうさぎの肉の入った、スープなんかはありませんか、体の中からほくほく温まる、そんなスープがほしいのです」
うさぎはぎろりときつねを見つめ、 「当店にスープの扱いはございません。またのお越しをお待ちします」


「それでは仕方ありません。その血のようなマフラーをひとつ、いただいて帰るといたしましょう」
きつねはそういうと森に帰っていきました。


しばらくすると、今度は胸に、三日月の印を持った、大きなくまがのそりのそりとやってきました。
「こんばんは、満月の夜、ごきげんよう」
店主のうさぎも応えます。
「こんばんは、満月の夜、ごきげんよう。三日月を胸に持つあなたに今日は何をさしあげましょう」
「もうすぐ長い長い冬がやってきて、私はひと冬ずっと穴の中で寝て過ごさなくてはなりません。眠りにつくその前に、何か心躍るものを買いにきました」


「それでは、こちらの本はいかがでしょう」
うさぎが立派な表紙のついた、一冊の本を取り出しました。
「この本は、私には小さすぎて、そして私の長い爪では本のページをめくることができません」
うさぎはなるほどとうなずいて、それではとオルゴールを差し出しました。
「このオルゴールはいかがでしょう。お休み前に、きっと心休まることでしょう」


するとくまが言いました。
「これではあっという間に寝てしまう。それより、長い耳をつかんで振り回し、壁に投げつけ気持ちがすっとするような、そんな人形はありませんか」
うさぎはごくりとつばを飲み、
「当店に、そんな人形の扱いはございません。またのお越しをお待ちします」


「それでは、仕方ありません。その眠気を誘うオルゴールをいただいてまいりましょう」
くまはそういうと、ぴろろん、ぽろろん、音を鳴らして、山へ帰っていきました。


それから、いくらか時間が経って、今度は手のひらほどの小さな野ネズミがやってきました。
「こんばんは、満月の夜、ごきげんよう」
店主のうさぎは応えます。
「こんばんは、満月の夜、ごきげんよう。遠いところをよくいらっしゃいました。見ればおなかが大きいような、そんなあなたに今日は何をさしあげましょう」
「あともう少しで赤ちゃんが生まれるの。赤ちゃんに着せるかわいいお洋服を買いにきたの」


「それでは、こちらのベストはいかがでしょう」
うさぎがピンク色の毛糸で編んだ、ふありとしたベストを取り出しました。
「このベストは毛糸がちくちくしているから、赤ちゃんがゆったりお昼寝できません」
うさぎはなるほどとうなずき、次に草木で染めた小さな布をつないだワンピースを箱から出して、
「それでは、このワンピースはいかがでしょう。肌にやさしく、赤ちゃんがますますかわいく見えますよ」


するとねずみはおなかをさすりながら言いました。
「もっと、ほおずりしたくなるような、洋服はありませんか。そう、ふわふわとした長い毛皮の」
うさぎは思わずぴょんと飛び上がり、
「当店に毛皮の扱いはございません。またのお越しをお待ちします」
「では仕方ありません。春の色したワンピースをもらいます」
ねずみはそういうと、草木で染めた、優しい色のワンピースを抱えて、大きなお腹をいたわりながら、帰っていきました。


うさぎは悲しくなりました。私はお客さんの欲しいものを売ることができません。
うさぎは泣きたくなりました。私は誰の役にも立てないのかもしれません。
するとどこからか、透明でまっすぐな静かな声が聞こえてきました。 「そんなことはありません。みんなひと月に一度だけ、満月の夜にオープンするお店にやってきて、あなたをひとりじめしたいのです。あなたにわがまま聞いてもらいたいのです」


うさぎは驚いて、声のするほうを見上げます。そこには、大きく丸く青く黄色く優しく輝く月がありました。
「でもね、満月の夜は、私もあなたがいなくてさみしいのです。いつも一緒にいるはずのあなたが、ずっと遠くに見えるから。いっそ私も、雲に頼んで雨の涙を降らしてもらおうかと、思うこともあるのです」
うさぎは驚いて月に言いました。
「お月様、下から見上げるあなたには、たしかにうさぎが見えません。けれど、いま私にはあなたがはっきりと見えるから、こうして安心して、ひと月に一度、満月の夜にお店をオープンさせることができるのです」
うさぎが言うと、月はちょっと笑ったように見えました。


それを見ていたうさぎも、なんだか嬉しい気持ちになって、陽気な声で言いました。
「さあさあ、今宵も店じまい。また次の満月の日までさようなら。次の満月の夜までに、みんなの欲しいものを仕入れておくことにいたしましょう。そう私の命に変えて」
東の空が明るくなって、月と太陽が入れ替わるとき、満月の夜にだけオープンする小さなお店も閉店の時間を迎えます。



仙波 るい
29歳 自営業 東京都世田谷区
望月 恭子
55歳 編集者 東京都世田谷区
<受賞のことば>
電話をいただいた時は嬉しくて震えました。まだまだ未熟な私ですが、「作ることを続けていいよ」と言ってもらえたような、一歩踏み出せたような気持ちになりました。(仙波)/今回はふたりでの受賞ということで、また格別な想いです。誰かと何かを創る、その幸せもひしひしと感じています。ずっと応援してくれている娘と主人にも感謝です。(望月)

短評
黒を基調にして、細い糸刺繍が効果を挙げている原画の光と影の美しさ、ところどころに入っている色彩の鮮やかさには、魅了されました。物語として、うさぎのお店のリアリティーが十分でなかったのが惜しまれます。
(三宅 興子)


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