日産グローバルTOP
日産 童話と絵本のグランプリ
第27回(2010年度)入賞作品
第27回絵本の部・優秀賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

おなべのなかから
作・絵/奥野 哉子



お日様が西の空にかたむき、お空はまっ赤な夕焼け空です。
トントントン クツクツクツ
ここはお台所。夕飯のいいかおりがしています。
今日の夕飯は何かしら・・・?

「あーいい湯ですね、おとうふさん。」
「ほんと、いい湯ですね、わかめさん。」

おやっ、なんだか話し声がきこえます。


おなべの中からきこえてくるようです。
どうやら声の主はおみそ汁の中のおとうふとわかめのようですよ。
少し、耳をすましてみましょうか。

「・・・ああ、ちょうどいいお湯かげん、みそかげん。」
「ほんとですね、おとうふさん。
ところでところで、おとうふさんはどちらからおみそ汁の中へいらっしゃったの?」


「私ですか、私は畑で生まれ育った大豆でしたのよ。」
「は・た・け・・・ですか・・・?」
「畑には、なすびさんやかぼちゃさん、トマトさんにオクラさん、いろんな野菜さん達がいらっしゃって、ふかふかのいいにおいのする土の上でいっしょに風にゆられておりました。」
「気持ちのいい所なのですね畑という所は。」
「畑には色んな虫さん達が遊びにいらっしゃいます。てんとう虫さんをわかめさんご存知?」
「てんとう虫ですか・・・きいたことのないお名前ですが・・・」
「てんとう虫さんはまあるくて、つやつやと赤くてね。その赤の上に黒いてんてんをお持ちなのです。」


「まあるくて、つやつや赤くて、黒いてんてん・・・。」


「では、カマキリさんをご存知?」
「カマキリですか?カマスさんなら知ってますよ!」
「カマキリさんはすっとスタイルがよろしくて、お顔は三角形をされていて、そしてそして、大きなカマを2本もお持ちなのです!」


「三角形でカマを2本!?その方とおとうふさんはお友達で?」
「カマキリさん、とってもダンディーなんですよ・・・ふふふ。」


「では、アリさんは?」
「いいえ、存じません。」
「アリさんはたくさんいらっしゃって、黒くって、そしてとっても小さいんですが、自分の体の何倍もの荷物をはこんでしまうんです。お部屋のたくさんあるお家も作ってしまうんですよ。」


「へえー、お部屋のたくさんあるお家ですか。なんだか楽しそう。」
「ところでわかめさんはお生まれはどちらですか?」


「私は青い海の中で生まれました。」
「海ですか!
海という名のとても大きな水たまりがあるという話は、風のうわさでききましたが、わかめさんは海からいらっしゃったのですか!」
「海の中もにぎやかで、色んな方がいらっしゃいましてね。
イソギンチャクさんとはご近所でね。」
「イソギンチャク??」
「イソギンチャクさんは大きなお口と細い手をたくさんお持ちなのですよ。そしてすきとおるような赤や、オレンジ色がとってもおしゃれなのです。」


「大きなお口に細い手がいっぱいあるおしゃれな方なのですね。」


「海にはたくさんのお魚さん達がいらっしゃるのですよ。
細長いキスさんに、黄色いしまがきれいなクマノミさん。海の底にペタッとはりついた平べったいカレイさん。
そうそう、カワハギさんをご存知ですか?」
「かわさきさんなら、畑に私の種をまいてお世話して下さったお百姓さんですけど・・・」
「カワハギさんはおでこに角が1本あって、小さなお口の中にはじょうぶな歯をお持ちなのです。」


「カブトムシさんには角はあったけど、歯はなかったなぁ。
黄色いしましまはミツバチさんみたいだし、地面にペタッと平べったいのは、落ち葉さんみたいだな。」


「畑という所もとっても楽しい所のようですが、海の中もほんとうに美しくって、私は生まれてからずっと海でゆらゆらしえおりましたが一度も退屈したことがありません。」
「私も畑で風にゆらゆらゆれておりましたので、何だかゆらゆらどうしですね。ふふふ。」
「お日様が海の中を照らすとき、もうそれはキラキラ美しくって・・・。」
「あらっ海の中にもお日様がいらっしゃるのですか。あの、あったかく光るおてんとうさんですね!」


「まあ、これはこれは、おとうふさんもお日様をご存知ですか?お日様は色んな所にいらっしゃるのですね。
あのステキなお日様が海の中だけのものでは、それはとてももったいない。
よかったよかった、畑にもお日様がいらっしゃって。」
「海の中へ、私もいつか行ってみたくなりました。」
「畑という所も、なかなかとっても楽しそう。」


 お日様が西の空にしずみ、さっきまで美しかった夕焼け空は、あっという間に夜の空に変わっていきます。
 ここはお台所。夕飯のいいかおりがしています。



奥野 哉子(おくの かなこ)
31歳 画家 大阪府東大阪市
<受賞のことば>
 昨年にひきつづき、選んで頂けたこと、心からうれしく思います。すてきな絵本を創るために、自分の表現の世界をもっともっと深めていきたいと思います。
 ありがとうございました。

短評
 お味噌汁の鍋の中で出合った豆腐とわかめが会話を交わすという着想がおもしろい。ふたりが、自分のいた畑と海について話しはじめると、絵は台所からひとっ飛びして、大胆で色鮮やかな世界へ。その飛躍が印象的。
(松岡 享子)


入賞作品一覧に戻る