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日産 童話と絵本のグランプリ
第27回(2010年度)入賞作品
第27回童話の部・優秀賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

「タイムカプセル」
作/妹尾 絵美子

「タイムカプセルって知ってるか?」
やっと学校が終わり、これから楽しい放課後。何をして遊ぼうかとわくわくして靴をはいていた僕の所にやってきたのは一番仲良しの圭太だった。いきなりの問いかけに僕が一瞬ぽかんとしていると、圭太は僕が質問に答えられないと思ったのだろう、にやりと勝ち誇った笑みを浮かべてふふんと鼻をならした。
「昨日父さんに聞いたんだ。タイムカプセルって、将来の自分への贈り物なんだって。」
「手紙とか、大切なものとかを入れてどっかに埋めといて、それを何年あととかに取り出すんだろ?知ってるよ。」
説明しようとして意気込んでいた所に僕がわりこんだものだから、圭太はぱくぱくと口を動かしたあとにむすっとした表情になった。
「知ってるなら最初っからそう言えよな!」
「だって突然だったから…。でも僕も圭太のお父さんに聞いたんだよ。こないだ遊びに行ったときに。」
圭太はえっと驚いてから、なあんだという顔をした。
「ちぇっ、父さんのやつ、ゆうすけの方に先に話したのかよ。まあ、いいや。それより、俺もタイムカプセルしてみたいと思って。お前もするだろ?」
唐突な誘いに僕は少々とまどった。確かに興味はあるけど、何を入れていいかさっぱり見当もつかなかったからだ。そんな僕を見て、考えを読んだかのように圭太は言った。
「何入れるかはゆっくり決めてからでいいからさ、やろうぜ。」
すでに圭太の家の近くの曲がり角に来ていたので圭太はそのまま「考えとけよー。」と手をふりながら帰っていった。
僕がぼんやり何にしようかと考えながら歩いていると、突然大きな声が頭の上から降ってきた。
「こら!まだ信号が変わってないだろう!」
びっくりして上げた顔の先には交通安全の黄色い旗を持ち、眉根をよせたおじさんが僕の前に立ちはだかっていた。毎日登下校の時になると立っている怖いと有名なおじさんだ。
「いいか、車が止まったからといって勝手に渡っちゃいかん!信号をみてからだ!」
言っていることはわかったけど、おじさんに言われるとまるで雷が落ちたかのようで体が震える感じがする。僕は小さな声で
「ごめんなさい。」
と謝って逃げるようにして横断歩道を渡っていった。少し走ってからふりかえると、おじさんはまだ僕の方を見送っているようだった。皆と同じで、このおじさんは苦手だ。僕は逃げるように家へと急いだ。
 その夜、僕は自分の部屋の引き出しをかき回しながらタイムカプセルに埋める物をさがしにかかっていた。木製の飛行機、お気に入りの本、何年か先に自分が見るものを見つけるのはあんがい難しい。
結局、あまり珍しくはないけれど、一生懸命集めたピンバッジのコレクションの中から5種類ほど選んで、それをカバンにつめこんだ。明日は学校が休みだ。
きっと圭太は朝早くに来るに違いない。
僕は楽しみにしながらベッドへと向かった。
 そして翌日、予想通りに圭太は朝早くうちへとやってきた。
「ゆうすけは何にした?」
尋ねる圭太に、僕はカバンからきらりと光るバッジをみせてやった。
圭太は目くりくりさせながら
「すげーな。なんか埋めるのもったいないなあ。」
とほめてくれた。
「俺さあ、一晩頑張って考えたんだけど、いざ入れるとなると…。こんなのしか選べなかった。」
圭太の取り出したのは数枚の写真だった。
「父さんが出張先で撮ってきてくれたやつなんだ。結構きれいな風景とか、色々あるから。」
見せてもらったけど、確かに圭太の父さんが撮った写真はプロみたいにきれいな物ばかりだ。圭太は照れたけど、すごくいいものだと思った。
「場所はもう決めてあるんだ。俺達がいつも遊ぶ神社があるだろ?そこの大きなイチョウの木の下に埋めようと思うんだ。」
圭太は準備がよくて、スコップとか、物をくるむ厚めのナイロンだとか、プラスチック箱だとかそんなものを僕の分まで用意していた。あとで聞いたことだけれど、タイムカプセルを埋めると聞いた圭太のお父さんがもたせてくれたらしい。
神社は僕らの家からそう遠くない場所にあるから、話をしているうちにすぐについてしまった。てきぱきと埋める物をナイロンで包み、プラスチックの箱につめると、早速イチョウの木の根元を二人でほりはじめた。そんなに大きな物ではないからすごく大きな穴をほる必要はなかったけれど、土は結構固くて、からりと晴れた天候だったにもかかわらず、ぼくらはじっとりと汗をかいて、もくもくとほり続けていると、イチョウのざわざわとした音だけが僕らの耳に届いた。そしてようやく箱が入るくらいの穴をあけたときだった。
カチン。
なにかがスコップにぶつかった音がして僕は手を止めた。
「あれ?何だろ。これ。」
スコップのあたった先には箱のような物が見える。
「他の人が何か埋めてたのかな。」
不思議に思いながらもっと掘っていくと、
「もしかして、これタイムカプセルじゃない?」
出てきたのは僕らが用意してきたのと同じようなプラスチックの箱だった。長い間土の中にあったのだろう、ずいぶんと痛んで茶色くなっていた。
「すごく古いよ。埋めた人もわすれてるかもよ。あけちゃ駄目かな。」
しばらく二人で悩んだ挙句、好奇心でいっぱいの圭太が「よし、あけてみよう。」と僕から箱を取り上げてしまった。
すると中から出てきたのは…
「ミニカーだ。」
所々さびているミニカーいくつかコロコロと出てきた。底には紙が一枚いれてある。
「5年2組 竹田 とおる。…だって。あっ、住所までかいてある!」
僕らは顔をみあわせた。
「やっぱりタイムカプセルだ。どうする?」
「届けてみようか。」
余計なお世話かもしれないけど、もし忘れていたとしたら喜んでくれるに違いない。結局僕らは紙とミニカーをもって“竹田とおる”君を探しに行くことにした。
家に行くのは案外簡単だった。圭太が近くのお店の人に場所を聞いてくれたからだ。
「あの信号があるだろ。あそこを右に曲がって、次の信号を左に行ったところだって。近くてよかったな。」
もうすでに外は夕日に包まれていて、あまり遅くになると困るところだったから、近いと聞いて僕も安心した。
言われたとおりに進んでいって、とうとう“竹田”の表札を見つけたものの、今度はどちらが呼び鈴を押すかで迷い、結局じゃんけんで負けた僕がその役をすることになった。
ピンポーン。
どきどきしながら待っていると、中から「はい」と声がし、出てきた人をみて僕はおもわず後ずさりをして圭太にぶつかってしまった。それはあの“怖い交通安全のおじさん”だったからだ。
「おや?何だ?」
急に訪れた僕らに驚いたのはおじさんも同じだったらしい。すっかり震え上がった僕は蚊のなくような声で小さく、
「あの…、これ…。」
とミニカーと紙を差し出すと、それをみたおじさんは目を丸くした。
「これを一体どこで見つけたんだ。」
僕が今までの成り行きを説明すると黙ってきいていたおじさんの目から、涙がにじんだので、今度は僕らが驚く番だった。
そしてしばらくしてポツリといった。
「…うちにも息子がいたんだ。トオルっていって、このミニカーの持ち主だよ。けど、ちょうど君らくらいの時に交通事故にあってこの世からいなくなってしまった。」
話すおじさんの目は真っ赤だ。
「とおるとおなじ子供がでないよう、それから毎日あそこに立つことにした。君らを守ろうといつも強く注意してしまうからこわいおじさんだと思っていただろう。ごめんな。」
おじさんはミニカーを懐かしそうに見つめ、つぶやいた。そしてすっかり暗くなってしまったからぼくらを家まで送ってくれたのだった。帰りがけに、「また遊びにきてくれよ。」と残して。
   *
次の日、おじさんはまたいつもどおり横断歩道のある交差点に立ち、登校するみんなを見送っていた。僕がそばに行って「おはようございます」というとおじさんは
「昨日はありがとな。」
と相変わらず怖い顔で言った。でも僕は前みたいに怖いとは思わなかった。
いつかまた圭太を誘っておじさんに会いにいってみよう。
学校の話や友達の話をいっぱいしたら、きっと慶んでくれるにちがいない。

妹尾 絵美子(せのお えみこ)
29歳 無職 鳥取県米子市
<受賞のことば>
 小さい頃から物語を書くのが好きで、童話作家になるのが夢でした。このような賞をいただき、本当にうれしく思います。
 自分の書いたものが読んでくれた人の心に少しでも響いてくれれば、これ以上ない幸せです。
 今回は本当にありがとうございました。

短評
 素材も文章も目新しさのない作品ですが、破綻することなく、迷うことなく、物語が進み、タイムカプセルを埋める話が、いつの間にか、もう一つの話に展開していきます。
 タイムカプセルの使い方が上手くいきました。
(三宅 興子)


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