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「スマートグリッド×EV」の未来を考える座談会

グーグル日本法人元名誉会長の村上さんと日産自動車の企画・先行開発本部エキスパートリーダーの上田さん、日経ビジネスオンライン プロデューサーの柳瀬さんに日本の電力とEVの役割について話してもらいました。

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2012/07/31

村上さん、スマートグリッドって何ですか?

村上:
スマートグリッドは、オバマ政権が「1グリーンニューディール政策」で言い始めたことです。私たちは、家庭やオフィスの電気を購入して使っているわけですが、高圧の「2電力系統」と呼んでいる部分は十分にコントロールされている一方で、変電所や配電所から下の、我々が使っている電力はあまりコントロールされてない。それを賢くしよう、スマートにしようというのがスマートグリッドです。何を使って賢くするかと言うと情報網を使うんですが、今の時代の家庭やオフィスの情報網というと、当然インターネットということになります。 電力網が賢くなるというのは、電力を使うモノがインターネットにつながってくるということです。ですから、オバマ政権がグリーンニューディール政策でスマートグリッドと言った時、電力網の話ではなく、分類としてはIT分野の話だったんですよ

柳瀬:
アメリカでスマートグリッドが注目されるようなきっかけって、何かあったんですか?

村上:
アメリカは、電力の供給体制が日本のような安定供給体制じゃないんですね。電力会社や電力に携わる会社が合計3000社ほどもあって、自由化ゆえの電力網の不安定さが否めません。顕著な例が、需要を発電がまかないきれなくなって発生した、2000年の「3カリフォルニア電力危機」です。自由化の結果、電力価格が下がって需要が大きくなって、供給を超えることで電力網が崩壊したんです。つまり、アメリカの場合は、電力網の不安定さを改善するためにスマートグリッドというアイデアが出てきたんです。さらに言うと、アメリカも再生可能エネルギーを導入していかなければならない。そうなると不安定さがより増してしまいます。日本の場合は、安定して高品質な電力を享受していた安定供給体制だったからこそ、スマートグリッドの導入に遅れを取ってしまいました。

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クルマは9割の時間、駐車されている

——日産では、EVの蓄電池を活用することで、スマートグリッドがより効率的になり、さらに賢く使えるようになると以前から考えてきました。3.11の震災以降、EVを蓄電池として使うことがより現実味を帯び始め、その動きはさらに加速しています。

柳瀬:
EVになって初めて、自動車に電気という要素が入ってくるわけですけど、クルマってもともと、スタンドアローンな存在として開発されてきた経緯が長かったと思います。上田さん、自動車会社として、スマートグリッドを意識したのはどんな時に、どんな形だったんでしょうか?

上田:
クルマは、所有されている時間を100%とすると、実際に使用されているのは10%くらいなんですよ。それぞれいろんな使われ方をしてますが、停まっている場所が違っても9割は駐車しています。EVの場合、そこに大容量の蓄電池が入っているわけで、移動手段ということだけでなく、停車中のEVを社会の蓄電池として利用できることがポイントです。スマートグリッドはそもそも、電力需給のバランスをとり使用電力の最小化を図ること。今までは、需要側のオーダーに従って電力を供給していましたが、スマートグリッドの仕組みが入ると、まず、需要サイドと供給サイドが、例えば「今は電力需要が多く供給が難しい」とか、「今は余剰がある」とコミュニケーションをして、発電ロスを低減するなどの効率化を図れます。さらに、ここに蓄電池が入ることで「余っているときに電力を貯めて必要な時に供給する」いわゆるピークシフトが可能になり、賢い電力需給マネージメントをすることができます。この蓄電池を停車中のEVで代替することで、EV電池の有効活用ができ、社会投資を抑えることが可能になるのです。これが基本的な考え方です。ところで、EVがどのくらい電池を持っているか御存知ですか?

柳瀬:
「日産リーフ」の場合は24kWhと聞きました。普通の住宅で使う電力で例えるとどのくらいなんですか?

上田:
家の大きさによりますけど、日本ですと一般的な家で2日分くらいですね。

柳瀬:
うわっ、大きいですね。「日産リーフ」にそのくらいの電力があるわけですか。

上田:
平均的なユーザーの1日の走行距離は30km程度で、使用電力にすると4kWhくらいです。多くは余ってしまうわけで、社会の蓄電池として使えば車以外の価値が生まれ、EVの価値の向上につながると考えています。

柳瀬:
村上さん。アメリカでは、スマートグリッドの構想が出てから電気会社と自動車会社の連携はあったんですか?

村上:
いいえ。そこまで直接的なものはなかったですね。スマートグリッドは、アメリカの電力を安定化するために必要な施策だったわけですから。ただ、オートモービルという所での競争力の維持みたいな、そういう施策は別途あったと思います。日本だと「1年間に3日間、トータルで10時間だけ、東京電力管内が6000万kWを超える可能性があるぞ」となったら、6200万kWの設備を作ってそのときのために待ち受けるんです。しかしアメリカでは、日本みたいな安定供給方式で待ち受けるのかと考えた時に「それはちょっと知恵がないでしょう」と、ピークの所をカットして需要カーブをなるべく真っ平らに近づけよう。大雑把に言うと、需要者側がピークの山を削って谷を埋めちゃおうと考えました。グリーンニューディールの流れで言うと、オートモーティブに関する部分の施策と電力システムを安定化しようという施策とが、やり始めてみたら最終的に合流してきていると言うのが正しいんじゃないですかね。

家庭用蓄電池、たまに走る

——社会に必要な蓄電池の一部を、停車中のEVが肩代わりする。そんなことを考えると、1台あたりでもそれなりの還元があってしかるべきです。コスト的な意味でも、EVオーナーは、その見返りを期待できそうです。

柳瀬:
日産としては、EVとしての能力を高めると同時に、スマートグリッドという社会のシステムにつなげるための実証実験をやっていますか?

上田:
EVを社会の蓄電池として使う可能性についての実証実験は進めています。ただし、クルマはあくまでも移動手段ですから、まず移動手段として役割を全うしないといけないですね。そこに影響を与えない範囲で、EVの電池を社会システムとして上手く使っていくための検証実験です。例えば、スマートハウスの場合は、EVの蓄電池を使って、昼間、太陽光発電で得られる余剰電力を貯めて夕方に使うとか、夜間の需要が低いときに系統電力を貯めて昼間使うなど、電力をより上手く使えるようになります。いまは、太陽光パネルの余剰電力は買取制度により系統に戻されますが、この買取価格も、太陽光パネル価格の低下に伴い、近いうちに系統電力料金を下回ります。すると、自分で余剰電力を貯めて、自家消費するほうが経済的にもメリットが出てきます。日本では、2020年に2800万kWの太陽光発電を目標とし、その7割は個宅の太陽光パネルで発電することになっています。同時に、1000万kWを超えると、この不安定電源を系統が吸収できなくなり、この変動分を吸収するために、7兆円から8兆円分の蓄電池が必要と公表されています。停まっているEVが、その蓄電池の一部を肩代わりできれば、その貢献分に対する還元を、EVユーザーが得られることになります。再生可能電力の拡大と同時に、個宅の電気代の節約や社会投資の低減にもつながり、社会的にも個人的にもメリットがあります。

柳瀬:
ただ蓄電池が置かれるんじゃなくて、クルマのマーケットが乗っかればいいということですね。村上さん、スマートグリッドが完成する仕組みをご解説いただけますか。

村上:
スマートグリッドがどうなったら完成しているのかというのはなかなか言いがたいと思いますが、スマートグリッドが日本全体に行き渡ったという1つの指標は、全国で電気を使っている家庭や事業所8000万戸にスマートメーターが入ること。2020年くらいまでにスマートメーターを入れていきましょうと考えられています。そうなってくると、少なくとも消費電力が見えるようになります。あるいは、消費電力をコントロールできるようになります。家庭の自動車の90%は駐車されているとなると、これからは「家庭用蓄電池、たまに走る」という位置付けになってくるわけですよね。

柳瀬:
タイヤ付き蓄電池という考え方ができるわけですね。

村上:
私の仄聞する所、日産リーフは、日産のクラウドにつながっているんですよ。「家庭用蓄電池、たまに走る」なんですが、逆にIT屋からするとですね、EVはスマグリ端末。となると、いろいろ、しめしめみたいな感じがあるんですよ。

柳瀬:
グーグルやアップルがやっているようなネットワークの上にハードウェア端末がいる状態が、電力網と自動車の関係ですね。しかも常時、何がどこにいてまで分かるという。

村上:
つまり今始まっていることは、1990年初頭のインターネットが民営化された時に近いですよね。インターネットは人と人がメールを送り合ったり、facebookでつながったりTwitterでつながったり、インターネットは人と人とのコミュニケーションだったわけです。それがいよいよ「インターネット・オブ・シングス」、モノのインターネットがいよいよ始まります。つまり、帰ってきた日産リーフと家庭の太陽光パネルとが会話して「充電するの?」「放電するの?」という会話が生まれてくる。その上でYouTubeに相当するもの、あるいはfacebookに相当するもの、Twitterに相当するものは何かというのが楽しみです。