Technology
NISSAN TECHNOLOGY
ENGLISH
TOP > 030 イルカのように、スムーズに

030

イルカのように、スムーズに

イルカが快適に泳ぐように進化したのと同じく、日産自動車が開発した新しいシャシー制御技術によって、自動車はスムーズに、意のままに、快適に走ることができるのだ。

アクセスランキング(1位〜3位を表示)

2013/11/13

イルカの祖先は、犬やオオカミに似た体長1.5m程度の動物だったという。それが今から5000万〜5500万年前、陸上から水中へと生活の場を移す。すると、体の各部は進化して,水中での生活に適応できるようになった。たとえば、前足がヒレへと進化した結果、それを使って水中でブレーキをかけたり進行方向を変えたりすることが可能になった。また、体毛がなくなり、体つきも流線型へ変わったことで、水の抵抗が減って速く滑らかに泳げるようになった。そして背びれも発達し、速いスピードで安定して泳げるようになった。
自動車は、見た目にはイルカほどの大きな変化は遂げていない。けれどもその中身は、イルカが快適に泳ぐように変化したのと同じように、大きな進化を遂げている。スムーズに、意のままに、快適に走ることができる日産自動車が開発した新しいシャシー制御技術を紹介したい。
ncc_.jpg
一般に、クルマの基本性能は「走る」「曲がる」「止まる」の3つだとされる。この3つの動きを生き物のように滑らかにすることで、今まで以上の「快適性」と「操る楽しさ」を提供するのが、今回紹介する技術である。
クルマが向きを変えたり、止まったりできるのは、サスペンションやステアリングホイール、ブレーキが機能しているからだ。そしてこれらの機構を総称してシャシーと呼ぶ。今回紹介するシャシー制御は、大きく「ブレーキをかける時」「カーブを曲がる時」「悪路を通過する時」の3つの状況で効果を発揮する。まず、「ブレーキをかける時」から説明したい。

「ブレーキをかける時」
これまでは、赤信号で目的の位置にスムースに停めるために、ドライバーはブレーキペダルの踏み具合を何度も細かく調整していた。一方、新しいシャシー制御システムでは、ドライバーのブレーキ操作に応じてエンジンブレーキを付加することで、ブレーキの効きが増したような感覚になり、楽に止まれる。
カーブに進入する時に減速する場合も同様だ。通常のクルマのドライバーは、カーブの大きさに合わせてこまめなブレーキ操作で速度を調整する必要がある。新しいシステムは、ステアリングホイールを切る量と車両の速度をもとに、エンジンブレーキの効きを適切に調整する。その結果、ドライバーがブレーキを調整する頻度が減り、運転が楽になる。

「カーブを曲がる時」
ドライブで楽しいのは思った通りにカーブを曲がって加速をする時ではないだろうか。ただしカーブでは遠心力というものが働くから、自動車は狙ったラインより外側にふくらんでしまう。各所のセンサーで外側にふくらむことを感知すると、自動的にカーブに対して内側の車輪(内輪)にブレーキがかかる。手こぎのボートで片方のオールだけを水中に入れて抵抗を作ると、その方向に旋回するが、それと同じ理屈だ。こうして、外側にふくらまず、理想のラインを走ることができる。
このシステムは、カーブの出口だけでなく入り口でも働くことがある。誤って高い速度でカーブに入ってしまうと、車体がグラっと傾き、ドライバーも同乗者も不安な思いをすることがある。こんなとき、このシステムはハンドルの動きと速度から、制御の助けが必要だと判断するのだ。そして4輪それぞれに滑らかなブレーキをかけ、ハンドルの効きが良くなるように仕向ける。その結果、ドライバーはスムーズな運転を続けることができるのである。
上手なドライバーは、多少高い速度でカーブに入ってもフラフラせず、システムのサポートを必要としないため、制御が入るとおせっかいに感じてしまう。このシステムはそうしたドライバーの技量の違いもセンサーの情報をもとに見分け、必要がない場合はサポートをしないようになっている。

「悪路を通過する時」
乗り心地が快適になる仕組みだ。自動車のサスペンションには、車両の上下の揺れを抑えるショックアブソーバーという部品が備わっている。ショックアブソーバーの効きが強力だと、路面の凸凹を乗り越えても車体の揺れはビシッと収まる。今まで知られていなかったけれど、ブレーキをかけるとショックアブソーバーの働きが強まることを日産は発見した。そこで、車輪の回転数の変化から大きい凸凹を感知するとドライバーが感じない程度のブレーキをかけ、ショックアブソーバーの効きを強くする技術を開発した。
新システムでは車体の上下の揺れを抑えるため、ブレーキだけでなくエンジントルクの制御も行っている。電気自動車日産リーフのモーター制御で実現した技術を、エンジン制御でも実現したのだ。これは、エンジンが発生するトルクを極めて素早く微調整することで、車両の動きをコントロールする技術。アクセルを踏めばトルクが増え、車体の前半部分が浮き上がる。アクセルを戻せばトルクが減り、車体が前のめりに沈み込む。こうした車体の動きを利用している。
路上の小さな凸凹を乗り越えると車体は上下に動くが、新しいシステムは車輪の回転速度の変化からこの上下動を常に把握している。そして、その動きを打ち消す向きでエンジンのトルクをわずかに増減することで、車体の動きを小さくすることができるのだ。
制御で変化するエンジンのトルクの増減幅は非常に小さく、ドライバーが違和感を感じることはない。これらの制御で、ドライバーは凸凹のある道を、より快適に走ることができるようになったのだ。
イルカのようにスムーズに走るために
実は、これに近い技術は昔から存在していた。たとえば車両が不安定な状況になるとエンジンの出力を制限したり、ひとつのタイヤに自動的にブレーキをかけて動きを安定させる技術は多くの車種に搭載されている。今回紹介した新しいシャシー制御技術も、そうした制御技術の進化型だと言える。ただし、限界を越えた時に作動するのではなく、普段のドライブから作動するのが大きな違いだ。安全性の確保はもちろん、運転を楽しく快適にする技術に進化したのだ。
イギリスの生物学者グレイは、「イルカは約50km/hで遊泳するが、それには実際のイルカの7倍の筋肉量が必要である」と述べている。つまり、実際の筋肉量では50km/hのスピードは出ないということで、これは「グレイのパラドクス(背理)」と呼ばれる。
イルカが高速で泳げる理由については諸説あるが、体の一部を変形させることで水の抵抗を減らしている、という説もある。つまり水流を感じとって、より速く泳ぐために自分の体をコントロールしているということだ。陸から海へと生活の場を移してからも、イルカはさらなる進化を遂げているのだ。
新しい制御システムも、車両各部のセンサーが受ける入力から、これから何が起こるのかを予測する。そして楽しく快適に走れるように、エンジンやブレーキを制御する。いま置かれている状況を把握して、よりスムーズに走るように体の機能をコントロールするあたり、まるでイルカのようではないか。