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035

見えないところをツルツルにする

たとえばサメの場合は「サメ肌」と呼ばれるように、体表面の小さな突起が水の抵抗を減らしていると言われる。超高速で動く部品が多い自動車部品の中でも特に高速で動くエンジンの抵抗を減らす技術のひとつを紹介したい。

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2014/03/04

水の中では、空気中の数十倍の抵抗を受けるとされている。したがって水中を高速で泳ぐ動物の体の表面は、水の抵抗を減らすためにさまざまな工夫が施されている。
たとえばサメの場合は「サメ肌」と呼ばれるように、体表面の小さな突起が水の抵抗を減らしていると言われる。マグロの場合は、体の表面をやわらかい粘膜が覆っている。この粘膜が水の抵抗を減らすことで、水中を100km/h以上のスピードで泳ぐことができるという説が有力だ。
超高速で動く部品が多い自動車においても、抵抗を減らす技術は重要だ。今回は、自動車部品の中でも特に高速で動くエンジンの抵抗を減らす技術のひとつを紹介したい。
皮膜を作って抵抗を低減
エンジンの仕組みを簡単に説明すると、ピストンの上下運動を回転運動に変換して、その力でタイヤを回すということになる。ピストンは、エンジンの台座(シリンダーブロック)に設けられたシリンダーボアと呼ばれる筒状のスペースで上下運動を行う。最近のシリンダーブロックは軽量化のためアルミが使われているため、シリンダーボアには工夫が必要である。ピストンリングがアルミボアの中を上下する際の摩擦による摩耗が避けられないからだ。
そこでシリンダーボア内部に、シリンダーライナーと呼ばれる鋳鉄製の円筒を挿入する。ピストンの上下運動は、このシリンダーライナーの内側で行うのだ。
日産のミラーボアコーティングという技術は、シリンダーライナーを挿入する代わりに、シリンダーボアの表面に溶かした鉄を吹き付けて、鉄のコーティング被膜を形成するものだ。
しかも、ただのコーティングではない。「ミラー」「コーティング」という言葉からもわかるように、表面が鏡面仕上げとなっているのだ。
通常、シリンダーボアの表面にはクロスハッチという細かい溝を設ける必要がある。溝に油を貯え、油膜を保持するためだ。一方、ミラーボアコーティングは、被膜表面にできる微細な穴を利用して油膜を保持することで、クロスハッチを廃し、表面を鏡面加工することが可能となったのだ
ツルツルピカピカの表面となることでピストンが上下運動する際の摩擦抵抗が減り、他の付随する効果も合わせて約1.2%の燃費向上につながる。1.2%と聞いて、「大したことない」と思われる方もいるかもしれない。けれども現代の燃費技術は「乾いた雑巾を絞る」と言われるほど、やり尽くされた感がある。その状況にあって、高価な装置や運転者に我慢を強いることなしに、純粋に燃費が低減できる技術は希少なのだ。
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尾から頭に向かってサメの肌を撫でるとザラザラする。ただし表面の小さな突起は、頭から尾に向かって水の流れをスムーズにする働きがある。この仕組みは競泳用の水着に応用され、大きな効果を発揮した。
レーシングカーの技術をすべてのクルマに
実は、シリンダーライナーの代わりに鉄被膜をコーティングする技術は以前から存在した。ただしコストや手間暇の問題があり、レーシングマシンや、一部の高価なスポーツカーにしか採用されなかった。日産でも、日産GT-Rでこの技術を採用している。日産GT-Rでは鉄被膜をコーティングする以外に、溶かした鉄を吹き付ける前にアルミを処理する独自の技術を採用していたが、今回日産はこれらの技術を量産エンジンに使えるように改良した。さらに被膜の特性を生かし、表面処理の工夫を加えることで、一歩進んだ性能を実現したのだ。
この技術の大きなメリットは摩擦抵抗の低減であるけれど、シリンダーライナーがなくなることによる軽量化、ピストンとシリンダーボア内部が密着することによる熱伝導率の向上など、いいこと尽くしといっていい。燃費はもちろん、走行性能の向上にもつながるのだ。さらにミラーボアコーティングは、ガソリンエンジン車はだけでなく、ハイブリッド車も含めた、エンジンを使うすべての車に使える非常に適応範囲の広い技術である。また、ミラーボアコーティングの技術を前提に設計したエンジンは、従来のものよりも小さく軽量なものになるだろう。見えないところをツルツルピカピカにする技術が、エンジンの可能性を大きく拡げてくれるのだ。