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日産がEVバッテリーを開発したワケ?

日産はなぜ、バッテリーを開発したのか? この質問に、EVエネルギー開発部エキスパートリーダーの宮本丈司さんは「サプライヤーのバッテリーを買ってきても、満足できるだけの電池は市場になかった」と言い切ります。

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2011/12/19

日産はなぜ、バッテリーを開発したのか? この質問に、EVエネルギー開発部エキスパートリーダーの宮本丈司さんは「サプライヤーのバッテリーを買ってきても、満足できるだけの電池は市場になかった」と言い切ります。「電池はトータルのバランスが重要。ある程度自分たちで作り込まないと、目指すモビリティは実現できない」のがその最大の理由。クルマの特性に応じたバッテリー開発が、EVのエネルギー効率を高めるのです。これは、バッテリーだけではなく、モーターやインバーターなどにも言えること。EVには、EVのコンセプトに応じた部品の開発が欠かせません。
日産が自らバッテリーを開発したもう1つの理由はコストです。市販車を前提にした日産リーフというクルマは、一般のユーザーの手が届く範囲の価格でなければ成立しません。コスト削減には、電池のコスト削減が大きな鍵を握っているのです。
宮本さんは、1981年に日産に入社。「アルトラEV」など歴代のEVのバッテリー開発に携わり、今回、リーフのバッテリー開発のエンジニアサイドの責任者としてバッテリー開発に取り組みました。

歴代EVのフィードバックから生まれた工夫

日産には、これまでに積み上げてきた電気自動車の歴史があります。日産リーフのバッテリーは、11998年に発売した「アルトラEV」、21999年に発売した「ハイパーミニ」といった歴代のEVを通じて得た経験とデータ、ノウハウがあったからこそ完成したと言えます。例えば、実際にEVがどのような使われ方をして、バッテリーがどのように発熱するのかというデータは、日産リーフのバッテリー開発に大きく貢献しました。その1つが、バッテリーのための冷却装置を持たないことです。
また、日産リーフ発売前には、プロトタイプの車両を使って、アリゾナやカリフォルニア、ニューヨーク、デトロイトなどで1年以上を費やしたテストを実施しています。歴代のEVから得たデータをベースに開発したバッテリーが想定通りに作動するかどうかという検証を繰り返しました。
 

「冷却装置要らずのバッテリー」

メリット:コスト削減、省スペース化 耐久性向上
日産リーフのバッテリーには冷却装置がありません。これは、ほかの自動車メーカーのエンジニアやバッテリー開発者にとっては、驚くべき事実かもしれません。冷却装置を必要としないのは、バッテリーの内部抵抗の調整により発熱を抑制し、バッテリー自体の温度上昇を抑えているからです。過去のEVから得たデータをもとに、日産リーフの車両コンセプトや使用電力量、充電の頻度などを検討し温度上昇をシミュレーションした結果、冷却装置を必要としないバッテリーが誕生しました。
バッテリーに冷却装置が必要な場合には、冷却装置を設置するコストとスペースが必要となり、車両価格の上昇やバッテリーの搭裁量低下につながります。バッテリーが冷却装置が必要ないことは、ユーザーのメリットとなるのです。
また、 冷却装置が必要ないレベルに、発熱を抑えるようバッテリーを設計していることは、バッテリーにとっても、さらなるメリットを生み出します。それは、バッテリーが長持ちするということ。バッテリー寿命を低下させる要因で最も大きいのがバッテリーの発熱です。つまり、バッテリーが発熱したら冷却装置で温度を下げようという思想では、耐久性という面でバッテリーに不利な条件が生まれてしまうのです。
 

「ラミネート構造でレイアウト自由自在」

メリット:スペースの有効活用、高い冷却性能
日産リーフのバッテリーは、ラミネート型バッテリーセルを採用しています。4枚のラミネート型バッテリーセルを1セットのバッテリーモジュールにし、合計192枚のセル・48個のモジュールからなるバッテリーパックをフロアー下に搭載しています。
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左上、ラミネート型バッテリーセル。右上、ラミネート型バッテリーセル4枚を1セットにしたバッテリーモジュール。下、48個のモジュールからなるバッテリーパック。
薄いラミネート型バッテリーセルは、縦にも横にも設置できる特徴があります。ラミネート型セルのレイアウトの自由度の高さは、バッテリーを設置するスペースの有効活用に欠かせません。日産リーフでは、バッテリーモジュールの縦置き、横置きを組み合わせ、スペースいっぱいにバッテリーを配置しました。薄い形状は、バッテリーモジュールをキャビン床下に敷き詰めるのにも一役買っています。
また、この薄く表面積の大きい構造は放熱性に優れ、特別な冷却装置を必要としない日産リーフのバッテリーシステムを成立させる重要な役割も果たしています。
日産リーフのバッテリーにおける一番の課題は、このスリムな構造のラミネート型バッテリーセルが、自動車部品として成立するのかということでした。信頼性を高めるために、ラミネートフィルムメーカーと共同開発し、ラミネートフィルムの部材を変更。樹脂の種類や厚みを検討し、リーフ専用のラミネートフィルムを開発しました。リーフ発売前の数年間に及ぶ試作車でのフィールドテストなどでその信頼性が確認され、採用に至っています。
 

「バッテリーを活かす車体設計技術」

メリット:「バッテリー搭載構造」と「衝突時安全性」の両立、低空気抵抗&軽量化による航続距離UP
バッテリーの性能を左右するのは、バッテリーの設計だけではありません。日産リーフでは、バッテリー以外の設計領域もまた、バッテリーの性能を引き出す重要な役割を担っています。
例えばそれは、衝突時の安全性能です。バッテリー自体が衝撃に対する耐力を有することはもちろんですが、合理的に安全性を確保する車体構造によって、より大きなバッテリー搭載スペースの確保が可能となるのです。ガソリンタンクを持つガソリン車にも同様のことがいえますが、バッテリー搭載スペースはガソリン車のガソリンタンクよりも大きいため、車体構造が果たす役割は、ガソリン車以上に重要になります。
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また、車体軽量化と空気抵抗低減は、EVの電力消費、つまり航続距離を延ばす大きな役割を果たしています。衝突に対する安全性と車体軽量化、空気抵抗低減を同時に達成することは容易ではありません。車体技術やEV専用シャシーの存在があってこそ、日産リーフのバッテリー性能が実現しています。日産の車体設計技術が、EVの航続性能を押し上げているのです。
 

自動車会社だからこそ作れるEVのバッテリー

「バッテリーの、容量、出力、耐久性、安全性、信頼性はトレードオフの関係。想い描いたクルマにあわせて、すべてをバランスさせることがなによりも大切」と宮本さんは言います。
極端な話、後部座席を取り除いてバッテリーを積み込めば、それだけ航続距離を延ばすことは可能です。しかし、日産リーフは5人乗り。普通のガソリン車に取って代わる、EV時代のスタンダードカーとしての役割があります。日産リーフは、あらゆる自動車技術の進化の足並みが揃わなければ、実現しませんでした。EVの普及により自動車会社でなくともモーターとバッテリーさえあれば自動車が作れる時代になったというような話を時々耳にするようになりました。「確かに作れはしますよ。ただ、リーフのレベルまでできるのならやってみて、って言いたいですね。EVは、人の命を乗せて走っているわけだから」。
バッテリー技術だけでなく、バッテリーに対応した車体、モーター、制御などの技術、車両コンセプト等あらゆる面から、車両全体で考えるからこそ安心で安全なEVが誕生する。EVは、総合力でしか作れないことを知っているからこそ、日産自動車はEV開発に力を入れ、バッテリーの開発に力を入れているのです。