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小さくなるという進化 -“ダウンサイジングエンジン“がもたらす低燃費と走りの両立

エンジンにおける進化とは大型化だと思われてきた。けれども、小さくなるという進化の方向も存在するのだ。

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2012/12/28

北極海ロシア領のウランゲリ島で発見されたマンモスは、約2トン。他の地域のマンモスが平均で約6トンであったことを思うと、非常に小型だ。一体何が原因なのだろうか。これは1964年にJ.B.フォスターが唱えた「フォスターの法則」で説明できる。資源の限られた島に住む大型動物は、小型化することで種の保存を図るというのだ。
実は、同じ動きが自動車の世界でも起こっている。一般に、エンジンにおける進化とは大型化だと思われてきた。けれども、小さくなるという進化の方向も存在するのだ。これが「ダウンサイジング」と呼ばれる流れで、具体的にはエンジンの排気量を小さくしたり、気筒(シリンダー)数を減らすことを指す。もちろん大排気量や気筒数の多いエンジンを好む顧客もいるから、すべてが移行するわけではないけれど、ダウンサイジングが大きな潮流であることは間違いない。

ただの小型化エンジンでは意味がない

近年、自動車メーカー各社は、さまざまな技術アプローチで燃費の改善に取り組んでいる。実は、燃費をよくすることだけを考えれば話は簡単だ。シリンダー(気筒)の数や排気量を単純に引き下げれば良い。たとえば4気筒エンジンを3気筒に、1.5ℓの排気量を1.2ℓにするのだ。シリンダーの数が減り、シリンダーの容積が小さくなれば、エンジンが軽くなり、省燃費に直結する。また、シリンダーが往復運動する機関であることを考えると、シリンダーの数が減れば摩擦の抵抗が減る。すなわち、エンジンの働きがより効率的になる(=燃費がよくなる)。
しかし、シリンダーを減らし排気量を下げるだけだと、エンジンの力が小さくなり、使いにくいクルマになってしまう。そして何より、車種特有の個性とも言うべき「走り」が損なわれ、別のクルマになってしまうだろう。求められるのは、燃費にすぐれながら、走る楽しさも両立するエンジン。これを実現するのが真の意味での「ダウンサイジング」というエンジンコンセプトなのだ。

ダウンサイジングを成立させる技術

エンジンを小さくしながら、走りを損なわないようにするため、ダウンサイジングエンジンでは過給器を採用する。過給器とは、エンジンに圧縮した空気を送り込むコンプレッサーの働きをする技術だ。ターボやスーパーチャージャーといった過給器と聞くと、走り屋のための技術で、パワーは上がるけれど燃費は悪くなるという印象をもたれるかもしれない。けれども、最新の過給器は、羽根の形や抵抗の低減などの進化を続け、今やエコとドライビングプレジャーを両立するためのコア技術だ。この過給器を上手に使えば、1.2ℓのエンジンにも1.5ℓエンジンと同じ分量の空気を送り込むことができる。つまり、小さいエンジンでも、より排気量の大きなエンジンと同質の走行性能を得ることができるというわけだ。
さらに、エンジンの直噴化もダウンサイジングエンジンを構成する大きな要素である。従来のエンジンは、シリンダーの手前で燃料を噴射して、それをシリンダーに吸い込ませていた。一方、直噴エンジンは、シリンダー内部に直接燃料を噴射する。直接燃料を噴射するメリットは、ガソリンをシリンダー内に直接噴射することで、ガソリンの気化熱がシリンダー内部の温度を下げることだ。スーパーチャージャーやターボチャージャーといった過給器付きエンジンは、高圧でシリンダーに空気を送るために吸気温度が高くなりやすい。したがって、従来はエンジンの圧縮比を下げて温度をコントロールしていた。
ダウンサイジングエンジンにおける過給器の働き
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一般に、エンジン排気量が小さくなると最高出力もダウンする。吸い込む空気の量が減り、一度に燃やすことができる燃料が少なくなるからだ。ここで日産のダウンサイジングエンジンでは、過給器が圧縮した空気をエンジンに送り込む(矢印)。吸入空気量の減少分を補うことでパワーが上がり走って楽しいエンジンとなる。
ここで、圧縮比について解説を加えたい。ガソリンエンジンは、霧状の燃料と空気が混ざり合った混合気を、ぎゅっと圧縮して着火、爆発させる。水鉄砲や空気鉄砲と同じで、より強く圧縮すれば(圧縮比を上げれば)それだけ爆発力は大きくなる。ただしガソリンエンジンの場合は、強く圧縮すると、爆発時の温度が高くなりすぎて異常燃焼が起こり、ノッキング(エンジンの異常振動)が発生してしまう。
それが直噴エンジンの場合は冷却効果があるので、過給器でたくさんの空気(=混合気)を送り込んで燃料を燃やしても温度の上昇を抑えることができるので、圧縮比を高めることが可能だ。過給器との相性が良いこの直噴機構を採用することで、燃費と走る楽しさを高いレベルで両立させることができたのだ。

エンジンの進化が世界を救う

エコカーの主役はハイブリッド車とEVだと考えられてきた。長期的にはそれで間違いないけれど、仕組みが複雑で高価になるハイブリッド車や専用のインフラを必要とするEVが普及するには時間がかかる。加えて、これから自動車が増えるのは新興国である。それぞれの国や地域の実情を考えれば、増加するのは主にエンジン車になるだろう。
したがって、地球温暖化などの環境問題をクリアするには、ハイブリッド車やEVの普及だけでなく、エンジンの進化による燃費向上が不可欠なのだ。省燃費と自動車を運転する楽しみを両立するダウンサイジングというコンセプトの存在感が増すことは間違いない。