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日産 童話と絵本のグランプリ
第33回(2016年度)入賞作品
第33回絵本の部・優秀賞

モーティの缶
作・絵/松丘 コウ


子牛のモーティは おばあちゃんが大好きです。
今日もおかあさんの焼いたパンを持って おばあちゃんの家へ行くと 見たこともないクッキーの缶がありました。
モーティは クッキーが大好き。
「クッキーだ、クッキーだ 食べていい?」
ところが


モーティは缶をあけるなり黙ってしまいました。
「おばあちゃん ひどいや、一人で食べちゃったの?」
「違う、違う。 それは亡くなったおじいちゃんがいた頃の缶よ。」


「どうして 空き缶なんてとっておくの? 中身がなくなったら 捨ててしまうよね。
クッキーが入っているって 間違えちゃうじゃないか。」
「そうねえ・・・。
この缶のクッキーは おじいちゃんがいつも食べていてね。
だからかしら この缶があると おじいちゃんがいるような気がして ほっとするの。
とても捨てられなかったから お裁縫道具を入れることにしたのよ。」
「ふーん、そうなんだ。
でも ぼくは やっぱり中身が入っているほうがいいな。
空っぽになったら 捨てちゃうよ。」


それから少しして モーティはおとうさんからお土産に お菓子の缶をもらいました。
中には赤いさくらんぼの飴やミルクの飴、クローバーの葉っぱの飴も入っていました。
自分だけのお菓子の缶をもらうのは初めてです。いつでも好きな時に食べられるなんて大人みたいです。
飴を口に入れて 舌でころころころがしました。ほっぺたが落ちそうにおいしい飴です。
モーティは嬉しくて 何度も缶のふたを開けて 中をのぞきました。


絵本を読む時は 横へ置きました。
本を読みながら 飴をぱくっ、ぱくっ、ぱくっ。
缶をおくと椅子にぴったりはまって 座り心地がとてもよくなりました。

夜は 枕元に置きました。こうすれば 夜中に 誰かに食べられてしまうこともありません。


いつも飴の缶を持っているので、おかあさんが 缶に紐をつけてくれました。
スキップすると 飴がことこと鳴りました。
丘をかけると 缶もカラコン、カラコン楽しげな音をたてました。
缶のふたにおでこを押し付けると ぺこぺこ、いいました。


ある日 モーティが飴をつまもうと缶をのぞくと からっぽでした。
「そっか、 この前 最後の1個をたべちゃったんだっけ。」


からっぽになってしまった缶は 外のゴミ箱へ。

「でも おばあちゃんは缶を取っておく、って言ってたなあ。
どうしよう、ぼくも取っておこうかな。
うーん・・・・
もう空っぽなんだから、ぼくはいいや」

モーティは 缶をゴミ箱へ入れました。


いつものように 遊びに行きました。
なんだか背中が すうすうします。
ちょうど缶をしょっていたあたりです。
スキップしました、丘を駆け上がりました
「ことこと」も「からこん、からこん」も聞こえません。
・・きっとそのうち 気にならなくなるよ。

 


いつものように ゲームをします。でもすぐに 飽きてしまいました。
お気に入りの本を読みます。でもすぐに ぼうっとしてしまいました。
どうしたのかな・・
「あっ!」
モーティは 自分の隣がぽっかり空いているのに 気がつきました。缶があったところです。
「そっか、だから 座り心地がわるかったんだ。」


それにしても なんだか へん。
何をしても ちっともおもしろくない。
どうしてこんなに おちつかないんだろう。
・・・・なんだか へん。


その晩 モーティは眠れませんでした。
なんだかへん・・・・・
どうして? どうしてなんだろう。

何か足りないような気がするんだ。
なんだろう、何が足りない?

あっ もしかして


モーティは 外へ駆け出しました。
もしかして
もしかして
もしかしたら・・・


モーティはゴミ箱から缶を拾い上げました。
「ずっと一緒だったから そばにないと落ち着かなくなっちゃたんだ。」
モーティはおでこで、缶のふたを何度も押しました。ぺこ、ぺこ、ぺこぺこ 缶が音をたてました。
モーティはおばあちゃんが 空っぽの缶を大切にする気持ちが 少しわかったような気がしました。


モーティは いつも缶と一緒です。
今日は おばあちゃんちへ来る途中 道端でいいものをみつけました。
ひょいと缶へ入れます。
飴の缶だと思って開けたおぱあちゃんは びっくり。

もう飴は入っていないけれど モーティの大切な缶です。



おしまい



松丘 コウ
主婦 静岡県函南町
<受賞のことば>
素晴らしい賞をありがとうございます。今年は駄目かな、とずずーんと落ち込んでいたところへ受賞のお知らせがありました。ただ、ただ嬉しかったです。

短評
色鉛筆を画材に輪郭線を入れず、画材のタッチを生かし丁寧に表現した画面は、暖かみのある空気感をかもしだし、空間を生かした画面の構成、ページごとの画面の変化も絵本として計算され作品の完成度を高めています。
(篠崎 三朗)


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