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日産 童話と絵本のグランプリ
第33回(2016年度)入賞作品
第33回童話の部・優秀賞

ビリケンさんの足のうら
作/はいだ じゅんこ

 ねえちゃんが、通天閣に行ってきよった。
 クラスメイトのまなみちゃんが、日曜日に家族で、通天閣に行くって話してて、ねえちゃんが、行ったことないって言ったら、「じゃあ、いっしょに行けへん?」って、誘われたんやて。
 なかよしのゆりちゃんにも声かけて、みんなで、まなみちゃんのお父さんの、車に乗せてもらって、行きよった。
 おれも誘われたけど、ことわった。
 だって、女ばっかりやし、みんな6年生で、おれだけ、4年生や。なんか、はずかしいから、行かんかった。
「はい、これ、おみやげ」
 と言って、ねえちゃんがくれたんは、ビリケンさんのストラップ。
(なんや、お菓子とか、うまいのんがよかったな)
 しょうじき、おれは、がっかりしたけど、「ありがとう」って言って、もらってやった。
「あら、かわいい、こうちゃん、よかったねー」
 お母ちゃんは、そう言ったけど、おれは、ぜんぜん、かわいいなんて思えへん。
 めっちゃつり目で、口のはしがにーっと、上にあがって、笑っている顔は、はっきり言ってこわい。
 おまけに、耳と頭がとんがっていて、めっちゃへんな顔。これのどこが、かわいいねん。
「くみちゃん、ビリケンさんに、お願いごとしてきた?」
「もちろん! ちゃーんと足のうらさすって、お願いごとしてきたよ!」
「なんで、足のうらさするん?」
 おれがたずねると、お母ちゃんが、
「あら、こうちゃん、知らんかった?」
 ビリケンさんは、通天閣のいちばん上の、展望台に住んでいる、幸福の神様や。
 頭がでっかくて、みじかい足を、前にのばして、足のうらを見せて、座っているすがたを、テレビで見たことあるから、ビリケンさんのことは、知っていた。
「ビリケンさんの足のうらを、さすりながら、お願いごと言うと、願いをかなえてくれるんよ」
 へぇ、そうやったんや。
「せやけど、なんで、足のうらなんやろう? おれ、足のうらさすられたら、くすぐったくて、いややけどな」
「気もちええんとちゃう?」
 お母ちゃんが、ゆかいそうにいった。
「ビリケンさんは、足のうらさすられたら、気もちええんよ」
「そうや、わたしも、そう思う! だって、ビリケンさん、きゅーって、くすぐったそうにわらってるもん!」
 というと、ねえちゃんは、おれにくれたおみやげの、ストラップのビリケンさんを、指さして、
「ほら、この顔、くすぐったいけど、気もちええって、うれしそうにわらってる!」
「ええ? そうかな?」
 おれには、そうは見えへんけど。
「ほんまやね、せやから、足のうら出して、さわってーって、いってはるんやわ」
「あっはっは! そんな、けったいな神さん、おれへんわ!」
「おる、おる、ここにおる! ほら、こうちゃんも、お願いごとしなさいよ」
「ストラップに? おれ、いややー」
 その場では、せんかったけど、その日の夜、寝る前に、ふざけてお願いごとしてみた。
 ちっちゃいストラップのビリケンさんの足のうらを、指さきで、ちょこちょこっと、さわって、1週間後の学校のマラソン大会で、優勝できますようにって。
 そしたら、ビリケンさんが、うれしそうにわらったような、不思議な感じがした。
 次の日の、体育の時間は、グラウンドを10周走るという、マラソン大会の練習やった。
 おれは、走るのはめっちゃ好きで、マラソンは、学年で1番はやい。
 せやけど、こんどの大会は、全校生徒が、みんなで走る。6年生に勝って、優勝するのは、むずかしいかもしれない。
 ふと見ると、遠くのかなあみのさくに、へばりついて、黒いスーツに黒いサングラスをかけた、ノッポのおっちゃんが、おれらの練習を、じっと見ていた。
 見たことない人や、だれやろ?って思いながら、さいごの1周を、一番に走り終えたおれは、もう1回、黒いノッポのおっちゃんの方を見たら、もういなくなっていた。
 それから、この黒スーツで、サングラスのあやしいおっちゃんを、町で何回も見た。
 このおっちゃん、近くで見ると、めっちゃ背が高くて、めっちゃ足が長い。かみの毛が、上にツンと、ツノみたいに立っていて、めちゃくちゃ目立つから、すぐわかる。
 ひとりで商店街を、ぶらぶら歩いていたり、コンビニで、立ちよみしていたり、公園でブランコに乗って遊んでいるのも、見てしまった。
 きっと、仕事をくびになって、やることがないんやな。『ふきょう』やって、テレビのニュースで、いってたもん。
 おれは、心の中で、「おっちゃん、がんばれ!」って、いってやったんや。
 おれは、せまっているマラソン大会のことで、頭がいっぱいになっていたから、黒いノッポのおっちゃんのことは、あんまり気にしていなかった。
 そして、いよいよ、マラソン大会の朝がきた。土曜日やから、会社が休みのお父ちゃんも、デジカメとビデオももって、お母ちゃんといっしょに、応援にきてくれた。
 河川敷のジョギングコースを、1年から3年生は、5キロ、4年から6年生は、10キロのコースを走る。
 スタートの合図の、ピストルが、パーンと鳴った! おれは、1番に飛び出した! ぜったい、優勝したるねん!
 さいしょは、快調に走ってたおれやけど、だんだんと、ペースが落ちてきて、残り3キロをすぎたあたりから、上級生に、ぬかされていった。あと、2キロ、あと、1キロ、「くそっ! やっぱり、上級生には、勝たれへんのか!」
 そう思って、くじけそうになった時、後ろから、大きな声が聞こえた。
「走れー、こういち! 走るんやー!」
 お父ちゃんかと思って、ふり向いたら、ちがう! あの、黒スーツのノッポのおっちゃんや! 長い足で、地面をガンガンけって、猛スピードで、おれを追って走ってくる!
「アホー! 前見て、走れー! 止まったらあかん! 走って、走って、優勝するんやー!」
 めちゃくちゃ、こわい! おれは、走って、走って、走りまくった! 「逃げろ! 逃げろ!」おれは、そう思って、全速力で走って逃げた。
 すると、目の前に、ゴールのテープが見えてきた。おれは、わけがわからんまま、必死に走って、テープを切って、そのまま、たおれこんでしまった。
「優勝は4年生の、片山こういちくんです! おめでとう!」
 みんなが集まって、おれに拍手をした。その中に、黒いノッポのおっちゃんもおった。
 おれは、ぜぇ、ぜぇ、息が切れて、声がでない。おっちゃんは、おれの頭をなでて、サングラスをとった。
 おっちゃんの目は、つり目やった! あっと、思った瞬間、おっちゃんが、にっこりわらって、こういった。
「ようがんばった。ありがとう、きもちよかったで」
 そして、人ごみの中に、消えて行ったんや。
 あとで、お父ちゃんに、デジカメとビデオを見せてもらったけど、黒いノッポのおっちゃんは、どこにも映っていなかった。
 おれはすぐに、お父ちゃんたちに、通天閣につれていってくれって、たのんだ。
 おれがあんまり、いうもんやから、次の日の日曜日に、家族で通天閣へ行った。
 はじめての通天閣。金ピカの展望台に、ビリケンさんが、きげんよう座っていた。
「こうちゃん、ほんまに、ビリケンさんが来て、願いをかなえてくれはったの?」
「うん、そうやけど……」
 おれは、目の前のビリケンさんを、じっとみて、そっと、足のうらをさわってみた。
「この、ビリケンさんと、ちがう」
 おみやげ売り場には、ねえちゃんがくれたビリケンさんのストラップが、ぎょうさん売っていた。
 おれは、もらったビリケンさんのストラップを、ポケットから出して、じっと見た。
 まちがいない、このビリケンさんや。
 家に帰って、お父ちゃんにパソコンで、ビリケンさんのことを調べてもらった。
 そうしたら、ビリケンさんは3体おるってわかったんや。
 通天閣のビリケンさんは、3代目で、その前の2代目のビリケンさんは、引退して、ある音楽バンドのバンドメンバーになって、保管されているらしい。
 そして、初代のビリケンさんは、大正11年から、ずっと行方不明になっている。
 あの、マラソン大会の日から、黒いスーツの、ノッポのビリケンさんには、会っていない。きっと、初代のビリケンさんは、何十年も、日本中を、走りまわって、みんなの願いを、かなえてまわってるんや。
 そら、つかれるやろな。
 せやから、おれ、たまにやけど、ビリケンさんの足のうらを、つかれが取れますようにと、さすって、マッサージしてやっている。

はいだ じゅんこ
45歳 無職 大阪府大阪市
<受賞のことば>
この作品は、母がお土産に買ってきてくれたビリケンさんのストラップがきっかけで思いついたお話で、締切日に一気に書き上げました。見直しする時間がなく、投稿を回避しようかと迷いましたが、ビリケンさんが「エエから、行ってまえ!」と足で背中を押してくれたかわかりませんが、思い切って締め切り時間ギリギリに投稿しました。ですから、まさか!です。優秀賞を受賞できて幸せです。ありがとうございました。

短評
 「おれ」の近くにあらわれる黒いスーツ、サングラスのノッポのおっちゃんはだれか、「おれ」は、はたしてマラソン大会で優勝できるのか……、スリリングな物語が大阪のことばで語られる魅力あふれる作品です。
(宮川 健郎)


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