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日産 童話と絵本のグランプリ
第32回(2015年度)入賞作品
第32回絵本の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

「ちかしつのなかで」
作・絵/横須賀 香

てつやはちかしつに おもちゃをさがしにきました。


ここはすこしまえまで、おじいちゃんのひみつきちでした。
でもいまでは たくさんものがしまってあるだけ。
さがしている ききゅうのおもちゃは ちっとも でてきません。


するととつぜん、ひくくつめたい こえがしました。
「おもちゃばこのよこを さがしてみろよ」
ちかしつが しゃべったのです。
てつやは ぽかんと くちをあけました。


ききゅうはたしかに ありました。
てつやがあまりおどろくので、ちかしつは すこしてれました。
「ずっとここにいるからな。 なんでもわかるさ。」
てつやは なんだか、ちかしつが すきになってきました。
「こんなくらいところに たったひとりで?」


なにか できることはないかと てつやはへやを ながめました。
すると、ガラスのランプがみつかったのです。


「やあ! こんなに まぶしいのは ひさしぶりだぞ」
ちかしつの はずんだこえをきくと てつやはうれしくなりました。
「きみは おひさまも、そらも しらないの?」
「そりゃあ、ここからそとに でたことなんか ないからな」
てつやは そらいろのペンキをみつけると
もう わくわくして かべじゅうを ぬりはじめました。


そして くもを つくります。
ちかしつが「どこまでも とんでけそうな きぶんだなあ」
とよろこぶので、 てつやも まいあがるような きもちになりました。

「じゃあ、くさはらも ひろげなきゃ!」
―それ、 いち にの、


さん!!


―せかいじゅうの すてきなものを


ぜんぶみせて あげられたなら 
ちかしつは
どんなによろこぶことでしょう。


やがて、ちかしつが ぽつりと いいました。
「これがそとの せかいなのか」


でもここは ほんとうの せかいなんかじゃ ありません。
ちかしつは そとに いくことが できないのです。
てつやはすこし むねがくるしくなりました。


あとなにが できるというのでしょう。
てつやは いっしょうけんめい かんがえました。
にぎやかな おと、またたく ひかり、
びゅんと ふきぬく はやいかぜ?



けれど かぜは あまりにも つよすぎました



「ごめんね…」


でもちかしつは こまったかおなど しませんでした。
「おれはなあ、
おまえさんのベビーカーもさんりんしゃも
ぜーんぶ あずかってきたんだぜ。
そのこが こんなにでっかくなって おれのために とんでまわって。
…おれはいま、 モウレツに かんどうしてるんだ 」
モウレツなんて すごいことばだな、 とおもいながら 
てつやは なんだか やさしくつつまれているような きがしてきました。 


ちかしつが「また、こいよ。」というので
「ひとりで さみしくない?」 ときくと
「ちっとも。おまえさんのあしおとが いつも うるさいくらいだよ。」
と いたずらっぽく わらいます。 
てつやは さいごに いいました。
「…いつか ほしのよるも みせたいな。」


てつやは ドアをしめ かいだんを あがりました。

―ちょうどそのとき。
へやのなかで おきたできごとに ちかしつは いきをのみました。

われたランプ、まいあがったカーテン、ちらかったものからこぼれた
たくさんのひかり―




横須賀 香
40歳 絵画講師 埼玉県桶川市
<受賞のことば>
絵本作家を目指して制作する時間は、心の底から没頭できる豊かなものであると同時に、果たしてこんな作風で良いのだろうかと不安に押し潰されそうになる日々でもありました。そんな中でこの様な賞を頂き、本当に有り難く今後の大きな励みとなりました。コンクール関係者の皆様と、いつも支えてくれた主人と息子達に心から感謝したいと思います。

短評
捜し物で地下室へ行った少年が、突然無機的な地下室との対話を始める。外へ出られない地下室に同情した少年が感動的に動く様子を、巧みなリアリティーで描くファンタジアは独特な発想だ。ただ地下室の眼は気になる。
(杉田 豊)


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