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日産 童話と絵本のグランプリ
第31回(2014年度)入賞作品
第31回童話の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

タンポポの金メダル
作/山本 早苗

 最終便のバスが行ってしまうと、山は急に静かになりました。月明かりが、誰もいない林道を照らしています。
そこへ突然、話し声がしてきました。
「きょうも、ぶじに終わったね」
「おつかれさまでした」
道をはさんで、ふたつのバス停が話し始めたのです。
どっしりした四角い土台に載った、細長い鉄の胴体と丸くて平たい顔。姿かたちもうりふたつなら、鉄板をたたくようなコンコンと響く声も、見分けがつかないほどよく似ていました。
このバス停は、ふたごでした。町に向かうほうが「ノボル」、山に向かうほうが「クダル」という名前です。
「アイコさんの足のぐあいはどうだい?」
ノボルが、気になっていることをたずねました。
アイコさんというのは、このバス停を利用するたった一人のお客さんです。道路沿いの一軒家にひとりぐらしをしています。
「ひざが痛いみたいだ。少し歩いては休んでいるよ。長く歩くのがつらそうだ」
クダルは、自分もつらそうに答えました。
「近ごろは、買い物にもあまり出かけなくなったみたいだし。たまに病院にリハビリに行くぐらいだね」
ノボルも、心配して言いました。
「若いころのアイコさんは、バス停まで毎朝走っていたのにね」
「そうそう、バスに乗り遅れそうになっては、いつもあわてていたっけ」
ふたごのバス停は、顔を見合わせて笑いました。
「タンポポの首飾りを作って、ぼくたちの首にかけてくれたこともあったね」
ふたごは、アイコさんが大好きでした。
「アイコさんがバスに乗らなくなれば、ぼくたちの役目もなくなってしまうね」
「アイコさんに、これからもバスを利用してもらうためには、どうしたらいいだろう」
ふたごのバス停は、しばらくだまって考えていました。
「バス停から、アイコさんの家まで遠すぎるんだよ」
「ぼくたちが、アイコさんの家の前まで引っこせればいいのだけどね」
「そうすれば、アイコさんは、バスに乗るのも楽になるし、バスからおりても楽だね」
「うん、これはいい考えだ!」
バス停は、うれしくて、だんだん声が大きくなってきました。
「でも、どうやって?ぼくたちは自分で歩いたことなんてないんだよ」
クダルは、急に声を落としました。
「その点はだいじょうぶ。運がいいことに、ぼくたちは地面に埋められていない。最近では、地面に足を埋められて動けない仲間が多いらしいよ」
ノボルは前向きです。
「そうか、そういう点では、ぼくたちは歩ける可能性があるということだね」
クダルは少し安心しました。
「でも、やっぱり自分で歩くなんて、できっこないよ。だって・・・」
そう言って、コンクリートでできた自分の四角い足を見下ろしました。
「やってみなくちゃわかんないだろ。そーれ!」
ノボルは、はずみをつけて伸び上がってみました。しかし自分ではジャンプしたつもりでも、土台は一ミリだって持ち上がりません。
「ぼくたちの体って、こんなに重いんだ」
ノボルは、初めて知ったように驚きました。
「しかたないさ。バス停は動かないようにできているんだもの」
クダルは、ひとごとのように笑いました。
それでもノボルは、あきらめずに「エイホ、オイホ」と体を左右にゆすってみました。すると、ほんのわずかですが、土台が持ち上がったのです。
「うわ、動いたぞ。クダルもやってごらんよ。ほら、エイホ、オイホ」
ノボルは、クダルを誘いました。
「ノボルの気のせいじゃないの?」
クダルは、うたぐり深そうに言いながらも、「うーん」と背すじに力を入れて、横に体を傾けてみました。
「あっ、何?この感じ」
ほんの一瞬、体が地面から浮き、重い土台の下に、スッと風が入ってきました。生まれて初めての経験です。
「うおー、すごい!動いた!奇跡だ!」
クダルは、自分の体が急に軽くなったような気がしました。
「ねっ、ぼくたち動けるんだよ。よし、目指すはアイコさんの家だ!」
こうしてふたごのバス停は、真夜中に毎日少しずつ移動することに話が決まりました。
でも重たい体をずりずりと動かすのは、とても力仕事です。三センチ動くのにも、ふうふうと何時間もかかります。小さな石ころにも要注意、つまずいたら大変です。
しんと静まりかえった夜の山に、ふたごのバス停の掛け声がこだましています。
「エイホ、オイホ」
「エイホ、オイホ」
雪の積もった日には、こんなことがありました。クダルが、「エイホ」と体を持ち上げると、地面が凍っていて、つるっと滑ったのです。
「おーっとっとっと、わあー」
大きくバランスをくずしてしまいました。グラッと体が傾き、とうとうそのままドスンと横に倒れてしまったのです。
「おーい、クダル。だいじょうぶ?」
「やっちまったよ。ああ、ぼくはもうだめだ。ノボル、君だけでも先に行ってよ」
クダルはうつぶせになったまま、すっかりやる気をなくしてしまいました。
「ぼくひとりだけ歩いても、しかたないよ。ぼくたちはセットなんだから」
ノボルは、キンキンと声を荒げてしかりました。
「だって、どうせ自分で起き上がることなんてできないんだもの」
クダルは、ふてくされています。
「きっと、誰かが起こしてくれるよ。ほら、アイコさんの家の、緑の屋根が見えるよ。あきらめたらだめだ」
ノボルは一晩中クダルを励ましたり、なだめたりしながら、助けを待ちました。
朝になり、バスが通りかかりました。
「バス停が倒れるなんて、よっぽど強い風が吹いたんだろう。それともクマのいたずらかな」
若い運転手はバスから降りると、クダルを持ち上げて起こしてくれたのです。

こうして長い月日がたちました。ついにふたごのバス停は、だれにも気づかれることなく、アイコさんの家がすぐそこに見える場所までたどり着きました。
「きょうから、ここがぼくたちの新しい居場所だね」
バス停は、それぞれの位置にどかっと落ち着くと、満足そうに胸を張って立ちました。

気持ちよく晴れた日、久しぶりにバスを待つアイコさんの姿がありました。さっきからアイコさんは、首をかしげて、自分の家とバス停を交互に見ています。
「おかしいわねえ。このバス停、こんなに近かったかしら。きょうはずいぶん早く着いたわ」
なんだか足まで軽くなったような気がします。
バスが来るまで、まだだいぶん時間がありました。
陽当たりのいいバス停の足もとには、黄色いタンポポが咲き乱れていました。アイコさんは、ふとなつかしくなって、タンポポをつみ始めました。
「ホホ、何年ぶりかしらねえ」
夢中になって、タンポポの首飾りをふたつ作り上げました。そして、バス停の平たい頭に、ひとつずつかけました。
「バス停さん、いつもありがとう。これからもお世話になりますよ」
バス停は、金メダルをもらったように誇らしげに、背すじをピンと伸ばしました。ほんとうはその場でぴょんぴょん飛びはねたかったのですが、じっとこらえて立っていました。

おわり

山本 早苗
58歳 主婦 福岡県久留米市
<受賞のことば>
このような栄誉ある賞をいただくことになり、大変驚いています。選んでいただいた皆様、応援してくれる家族や友人に感謝の気持ちでいっぱいです。本ができたら、孫に読んで聞かせるのがいまから楽しみです。これからも、自己満足、ひとりよがりすることなく精進していきたいです。

短評
まずバス停の標識が動くという着想がおもしろい。しかも彼らを動かす力は、足の悪くなった人へのおもいやりです。それが全体にとても暖かい空気をかもしだしています。柔らかいユーモアがさらに魅力そえています。
(松岡 享子)


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