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日産 童話と絵本のグランプリ
第30回(2013年度)入賞作品
第30回童話の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

カエルと王かん
作/なかじま ゆうき

 ある日、カエルのビクトールは、もりのいりぐちで、ぴかぴかとひかる王かんをみつけました。
 ビクトールは、王かんをあたまのうえにのせると、きのうの雨でできた水たまりにうつったじぶんのすがたをみてうっとり。
 なんだかとってもえらくなった気分です。
 あじさい池のほとりにもどったビクトールは、ほかの4ひきのカエルたちにじまんしました。
「どうだ。すごいだろう?オレはあじさい池の王さまだ。」
 ほかの4ひきは、おもわずビクトールにおじぎをしました。王かんをかぶったビクトールのりっぱなすがたをみていたら、なんだかわからないけれどそうしなければいけない気がしたのです。
 ビクトールが石のうえにふんぞりかえって
「ぶどう酒をもってこい。」
というと、4ひきはいそいでもってきました。
 つぎに、
「ミミズのフリッターがたべたいなあ。」
というと、4ひきは
「はい、ただいま。」
といって、ミミズをつかまえてフリッターにしました。
 そして4ひきはこういいました。
「王さま、バンザイ!」
 なんだかわからないけれどそうしなければいけない気がしたのです。
 つぎの日、こんどはマクウェルというカエルが王かんをみつけました。
「どうだ。すごいだろう?オレもあじさい池の王さまだ。」
 マクウェルは石のうえにとびのると、あたまのうえの王かんをじまんしました。
 ビクトールとマクウェル。王さまがふたりになりました。ほかの3びきはふかぶかとおじぎをしました。なんだかわからないけれどそうしなければいけない気がしたのです。
 マクウェルが
「オレにもぶどう酒とミミズのフリッターをもってこい。」
というと、3びきは
「はい、ただいま。」
といって、いわれたとおりにしました。
 つぎにビクトールが
「王さまのマントをつくれ。」
というと、マクウェルもすかさず、
「オレにもマントをつくれ。」
といいました。
 3びきは、大いそぎでマントを2まいつくりました。王かんをかぶり、マントをつけた王さまたちは、ますますりっぱにみえました。
 そして3びきはさけびました。
「王さま、バンザイ!」
 なんだかわからないけれどそうしなければいけない気がしたのです。
 そのつぎの日、こんどはマーガレットというカエルが王かんをみつけました。
「どう?すてきでしょ。わたしはあじさい池の女王さまよ。」
 マーガレットは、石のうえで、しゃなりしゃなりとあるいてじまんしました。
 王さまでも女王さまでもない2ひきは、やっぱりおじぎをしました。なんだかわからないけれどそうしなければいけない気がしたのです。
 王さまが3にんになり、王さまでも女王さまでもない2ひきは大いそがしです。
「わたしにもぶどう酒とミミズのフリッター、それにマントをちょうだい。」
「王さまのイスをつくれ。」
「こおろぎフライもってこい。」
「はい、ただいま。」
 王さまでも女王さまでもない2ひきはもうヘトヘトです。
 でも2ひきはこえをしぼりだしていいました。
「王さま、女王さま、バンザイ!」
 なんだかわからないけれどそうしなければいけない気がしたのです。
 そのまたつぎの日、のこりの2ひきのカエル、ヘドウィグとリズがそれぞれ王かんをみつけました。
 とうとう、あじさい池の王さまと女王さまは5にんになってしまいました。
 王かんをかぶった5にんは、石のうえにふんぞりかえってすわりました。
「おい、ぶどう酒とミミズのフリッターもってこいよ。」
「いやよ。わたしは女王さまよ。あんたがもってきなさいよ。」
「オレさまは王さまだぞ。」
「オレさまだって。」
「だれかわたしにすてきなマントをつくってよー。」
 もうだれも、いうことをきいてくれるカエルはいなくなりました。
 5にんの王さまと女王さまがすることといったら、石のうえにすわり、いばることだけでした。
 そのうち、もんくのつけようのないくらいあおかったそらのいろは、たくさんのみずをそそいだようにうすくなっていきました。その中をオレンジいろにかがやく雲が、山のむこうにしずんでいくおひさまにわかれをつげるようにゆっくりとうごいていきます。
 カエルたちはこんなゆうぐれどきにはいつも、池のうえにあおむけにうかびながら、のんきにその日あったできごとをはなし、ゲコゲコとわらいあうのでした。
 でも、この日はちがいました。あたりにふかいふかいむらさきいろのよるがきても、5にんの王さまと女王さまはあいかわらず、石のうえでいばったまま、だれもうごこうとはしませんでした。
 とうとう、よるじゅう5にんはいばりつづけていました。
 やがて、あたらしい朝のひかりが森のむこうから、このはのあいだをつらぬき、池のうえをはしるようにひろがると、池はまるでダイヤのつぶをしきつめたかのように、うつくしくかがやきだしました。
 カエルたちがいくら石のうえから、どんなにじぶんのすがたがりっぱなのかたしかめようと池をのぞきこんでも、まるでそんなすきまはありませんでした。
 5にんの王さまと女王さまは、まぶしそうに目をほそめると、いっせいに王かんをほうりなげました。
 そしてさけびながら池にとびこみました。
「ただのカエル、バンザイ!」
 なんだかわからないけれどそうしたくなったのです。
 ほんとうのことをいうと、5ひきは王さまと女王さまでいることにすこしあきていました。けらいがいないとなにもすることのない王さまと女王さまでいるよりも、なんでもすきなことができるカエルでいるほうがずっとずっとたのしいとおもったのです。
 5ひきはきもちよさそうにおよぎながらうたいました。
「王さまじゃなーい。女王さまじゃなーい。
カエルはかえるー。カエルにかえるー。」

 ── おなじころ、あじさい池のほとりをさんぽしていたカタツムリのムッシュ・エスカルゴは、ぴかぴかとひかる王かんをみつけました。
 そして王かんをあたまのうえにのせると、池にうつるじぶんのすがたを見てうっとり。
 なんだかとってもえらくなった気分です。
 それから、ぜんそくりょくでなかまのところにむかいました。
 みんなにじまんするために・・・。

なかじま ゆうき
37歳 主婦 滋賀県米原市
<受賞のことば>
子どもが生まれてからずっと、子どもたちの世界をのぞかせてもらっていました。子どもたちと経験したことや感じたことが、時間とともに薄れていかないようにと始めたばかりの挑戦です。今回、大きな賞をいただいて大変うれしいです。この賞の追い風を受けて晴れ晴れとした気持ちで次へと漕ぎ出せそうです。

短評
王冠を頭にのせることで「なんだかわからないけれど」次々展開していく蛙達の姿を描き出した秀作です。王様になれば○人、蛙なら○匹と書き分けていること、脱帽でした。終りの12行で、この世界が立体的になりましたね。
(あまん きみこ)


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