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日産 童話と絵本のグランプリ
第29回(2012年度)入賞作品
第29回童話の部・優秀賞一席
(※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

わけありリンゴのアップルパイ
作/浅井 優子

 今日は、お母ちゃんの三十五回目の誕生日。ボクはお母ちゃんの代わりに、夕食を作っている。
「ただいま・・・」
「あっ! びっくりした。おかえり」
 お父ちゃんが、えらいしょんぼりして帰ってきた。
「・・・お母ちゃんは?」
「お母ちゃんか・・・おらんよ。おばあちゃんとこ行った」
「そうか・・・よかった」
「なんでよかったんや?」
 ボクが聞くと、
「今日、お母ちゃんの誕生日やろ。リクは何かプレゼントするんか?」
「うん。ボク、カレー作ってんねん」
「そうか・・・そう言うたらカレーのええ匂いしてんな」
「お父ちゃんは何するん?」
「うん・・・しようと思てたんやけど。それがな・・・」
「それが、どうしたんや?」
「それがな・・ちょっと色々あって、プレゼントが、これになってしもたんや」
 お父ちゃんは、テーブルの上に一袋二百円のわけありリンゴを置いた。
「これになったって、このわけありリンゴか?」
「あかんやろか?」
「あかんに決まってるやん。こんな傷だらけのリンゴ、なんでこうてきたん」
「なんでって・・・お父ちゃんかて買う気なかったんや。昼休み、会社の近くのデパートに、指輪買いに行ったらな、入り口でこのリンゴ売ってたんや。この前、ごっつい台風あったやろ。あの時、えらい目ぇにおおたリンゴや」 「そやけど、一袋二百円のリンゴこうて、なんで指輪が買えへんかったんや?」
「そこや! あんな、リンゴ作ってる農家の人が募金集めてはったんや。お父ちゃん、おっちょこちょいやろ、千円札と間違えて一万円札入れてしもたんや」
「そやから、リング(指輪)がリンゴになったんか・・・なんや漫才みたいな」
「リク、どうしたらええやろ・・・お父ちゃん、とりあえず風呂はいってくるから、考えといてくれ」
「えっー、かなんなぁー」
 テーブルの上に置かれたリンゴをながめ、
「あーぁ」
 ボクは一つため息をつき、袋の中から一番大きなリンゴを取り出した。ほんなら・・・
「すいません・・・ご迷惑かけて・・・林太郎、言います」
 リンゴがしゃべった!
「リ、リ、林太郎君・・・」
 突然のことに驚いているボクにかまわず、林太郎は、
「袋の中に残っているのが、大きい順に長女の紅子、次女の咲子、三女の姫子です。妹たちは身体の傷を大変気にしています。どうか妹たちを、生まれ変わらせてやってください」
 と、おかしなことを言い出した。
「生まれ変わらす?」
 意味が分からないボクが、聞き返すと、
「妹たちは「おしゃれなアップルパイになりたい」と言うのですが、あなたとお父さんでは、どうも無理そうです。それなら「かわいいビンに入ったアップルジャムでもいい」と言うのですが、それも無理なら「ピンクのストロー付きのアップルジュースでかまわない」と言います。お願いできますか?」
 林太郎は、ボクを完全にバカにしている。そやから思わず、
「おしゃれなアップルパイ、作ったらええんやろ!」
 ・・・言うてしもた。そやのに林太郎は、喜ぶどころか、
「えぇぇぇー 大丈夫ですか・・・くれぐれも失敗のないように。妹たちをこれ以上、傷つけたくありません」
 と、こうきた・・・。そこへ、
「あー、ええ湯やった。リク、なんか、ええ考えうかんだか?」
 のんきなお父ちゃんが、風呂から上がって来た。林太郎は、あわてて、
「それでは、よろしくお願いしますね」
 と言い残し、ただのリンゴに戻ってしまった。
「ちょっ、ちょっ、ちょっと・・・」
 呼び止めても、もう遅い。やるしかない。ボクは、林太郎を握り締め、
「このリンゴでアップルパイ作ろか?」
 お父ちゃんに言うたら、お父ちゃん、
「アップルパイ・・・出来るんか?」
 林太郎と、おんなじ反応をする。
「作ったことはないけど、やってみよ」
 言うてんのに、お父ちゃん、
「なんや頼りないなぁ・・・」
 って、それはないやろ! ボクは頭にきて、
「お父ちゃんに言われたないわ! 千円札と一万円札を間違えたくせに・・・」
 ギッロって、にらんだら、やっと、
「すまん・・・やってみるか」
 その気になってくれた。ボクは気をとりなおし、
「お母ちゃんが帰って来るまでに作ってしまお」
「オー、ほんならお父ちゃん、パソコンでレシピ探すわ」
 お父ちゃんは、パソコンを開き、レシピを探す。
「リク、これにしよ。超簡単アップルパイの作り方。これやったら出来そうや。冷凍のパイシートあるか?」
「ある、ある、お母ちゃん、冷凍食品全品半額の日に、買いだめしてはるから、あるで」
「ヨッシャ! これでもう出来たな」
 なんや変な自信まで出てきた。
「リク、リンゴは三個でええみたいや」
「そうか・・・ほんなら一番大きなリンゴは残そ。袋の中の三個は女の子やから、ケーキにしたげよ」
「なんや、リクはリンゴの男女が見分けられるんか」
「まぁな」
「ほんなら、皮むこか」
「うん」
 皮をむきながら、お父ちゃんが、
「かわいそうになぁ・・・痛かったろ・・・こんな傷ついて・・・今から、美味しいアップルパイにしたるからな」
 優しいことを言う。傷ついたリンゴも皮をむき砂糖で煮ると、あめ色の美味しそうなジャムになった。それをタルト型のパイシートの上にのせ、その上を棒状のパイシートで、格子状に飾ると、
「お父ちゃん、アップルパイに見えるな」
「当たり前や、やったらなんでも出来るんや」
 出来るんか・・・言うて不安がってたんは、お父ちゃんのくせに・・・。
「リク、あとは焼くだけや」
「うん」
 オーブンを温め、アップルパイを入れ、
 しばらくすると、甘い香りがしてきた。
「リク、こげてないか?」
「大丈夫や!」
 二人で交代にオーブンをのぞく。
「チン」
 出来上がりを知らせる音で、お父ちゃんとボクは、おそる、おそる、アップルパイを取り出した。
「お父ちゃん、ええ感じやん」
「初めてにしては、上出来や」
 そこへ、
「ただいまぁー、ええにおいやなぁ」
 ええタイミングで、お母ちゃんが帰ってきた。ボクらは、急いでカレーをよそい、テーブルの真ん中に出来たてのアップルパイを、その隣に林太郎を置いた。
「おかえりぃー お誕生日おめでとう」
 お母ちゃんは、テーブルの上の料理を見て、
「ありがとうー 覚えてくれてたん」
 嬉しそうに笑う。お母ちゃんがテーブルにつくと、カレーを食べながら、お父ちゃんが、リング(指輪)が、リンゴになったわけを話す。お母ちゃんは、ケラケラ笑い、テーブルの真ん中にある林太郎を手にとり、
「このリンゴが、そのわけありリンゴなん。この前、なんかで読んだんやけど、傷のあるリンゴは甘いんやて」
「なんで?」
 ボクが聞くと、
「なんでって、傷、はよ治そ思て、リンゴが頑張るからやて」
 ボクは、なんか分かる気がした。それを聞いていた林太郎も、よほど嬉しかったんだろう。
「いやー、このリンゴわろてるわ」
 林太郎の真ん中にあった傷が、パクリと口をあけ、お母ちゃんの手の中で、笑っているように見えた。

 部屋の明かりを消し、ロウソクを立て、わけありリンゴのアップルパイに火をつける。ロウソクの明かりに照らされ、林太郎の笑っている顔が見える。お母ちゃんが、
「フー」
 ロウソクの火を吹き消すと、
「おめでとう」
 お父ちゃんとボクの声に混じって、
「お・め・で・と・う」
 林太郎は、ちいちゃい、ちいちゃい声で言った後、笑っている口を静かに閉じた。

浅井 優子(あさい ゆうこ)
52歳 介護福祉士 滋賀県草津市
<受賞のことば>
 このお話は「キズのあるリンゴは甘いんやて」「なんで?」「キズはよなおそ思て、リンゴが頑張るからやて」という娘との会話の中からうまれました。
 買ってきたリンゴにキズがあってほんとうにラッキーでした。ありがとうございます。

短評
 「リングがリンゴ」とは…なんと楽しい家族の物語でしょう。ボクという一人称で書かれた関西弁がぴったり、大きな力ですね。人間の家族とリンゴの兄妹の明るく暖かな二重奏―お母ちゃんの素敵な誕生会に拍手です。
(あまん きみこ)


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