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日産 童話と絵本のグランプリ
第27回(2010年度)入賞作品
第28回絵本の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

ぴっちとりた まよなかのサーカス
作・絵/長尾 琢磨



おひさまがしずんで、お星さまがかがやくころ、くろねこのぴっちとくろしろのりたは小さな入り口を見つけました。それはとても小さく、よこには何も書かれていない看板がおいてありました。
ぴっちとりたは何だろうと考えましたが、何もわからないので中に入ってみることにしました。


中に入ると目の前はまっくらでした。ぴっちとりたは灯りをたよりに歩きつづけました。
このまま戻れなくなったらどうしよう?ぴっちとりたはだんだん心細くなってきました。


やっと暗やみをぬけると、そこには立派なヒゲのネコがすやすやと寝ていました。ぴっちがイスをゆらすと、立派なヒゲのネコはゆっくりと目を覚まし、あくびをひとつすると読みかけの本を読みはじめました。
立派なヒゲのネコは二人に気がつくと、「ああ、これはこれは。ようこそ、まよなかのサーカスへ。」と眠そうに言いました。
サーカス!?
ぴっちとりたは顔を見合わせて飛び上がりました。二人はサーカスが大好きだったのです。ぴっちとりたは小走りで中へ入っていきました。


中にはまっ白い布でできたサーカスのテントがありました。でも辺りはとても静かで、本当にサーカスをやっているのか不安になってきました。コホン、と立派なヒゲのネコは自慢げに言いました。
「まよなかのサーカスは動物たちのためのサーカスです。悲しく辛い目にあっている動物のサーカスです。悲しく辛い目にあっている動物たちを元気づけるため、世界を回っているのです。誰もがサーカスの一員になりたいと夢見る最高のサーカス団なのです。」


ところがテントの中に入ると、お客さんはぴっちとりただけでした。立派なヒゲのネコはとなりでうとうとと居眠りしていました。
「まよなかのサーカス、開演です。」
ブザーの音が鳴りサーカスが始まりました。
しかし出てきたネコは古いサーカスしかせず、しかも失敗ばかりしていました。
すこしも最高のサーカスには思えません。ひどいものでした。


ぴっちとりたは立派なヒゲのネコを起こしました。「こんなサーカスなんて見たことないよ!」「お客さんなんて誰もいないじゃないか!」立派なヒゲのネコはおろおろするばかりでした。それもそのはず、なぜならここ何年もお客さんは誰一人来ないからでした。団員たちは新しい演目も考えず、昔からのサーカスばかりして、何にも努力していないのです。
そのうち「まよなかのサーカス」の人気はどんどんなくなっていったのです。最高のサーカスと呼ばれていたのはもうむかしのことでした。
「ぼくたちの夢見るサーカスを作ってよ!」
ぴっちとりたの言葉に立派なヒゲのネコは大きくうなづきました。そして団員たち全員でどうしていくか毎日話し合いました。


そしてついに「まよなかのサーカス」の開演の夜がきました。この日のためにみんなで知恵をしぼって考えた演目を、何度も何度も練習して来ました。でも何より大切にしたのは笑顔をたやさないことでした。
テントの外ではたくさんの動物たちが期待に胸をふくらませています。観客の動物たちはみんな昔のような「まよなかのサーカス」を何年も待っていたのでした。最高のサーカスを。
ブザーがなると、テントの中はまっくらになりました。
いよいよです。


生まれ変わった団員たちはみんな堂々とサーカスをしました。誰一人失敗を怖がってなく、ずっと笑顔で最高のサーカスを見せてくれました。
お客さんからは大きな笑い声とともにたくさんの拍手がひびきました。あのころのサーカスが帰ってきた!拍手はいつまでも止みませんでした。


「まよなかのサーカス」の評判はあっという間に広がり、毎晩世界中の動物たちがサーカスが来るのを楽しみに待っていました。「まよなかのサーカス」は、観客がたった一人でも最高のショーをひろうしました。少しでも多くの動物たちに笑顔を届けたかったのです。
ある日、まよなかのサーカス団のうわさは人間の王様の耳にも届き、公演依頼を受けたのです。サーカスのみんなは迷いました。もともと動物たちのためのサーカス団で、人間のためのものではないのです。
すると動物たちから一通の手紙が届きました。手紙には「ぼくたちの大好きなサーカスを、人間にも見せてあげて下さい。」と書かれていました。
「まよなかのサーカス」は王様のお城へ行くことにしました。


王様はまよなかのサーカス団を大歓迎してくれました。そして、「ネコのサーカス団 まよなかのサーカス」の記事を本に載せてくれる約束をしてくれました。
ただし、王様がサーカスを気に入った場合という条件がありました。
ぴっちとりたはサーカス団のみんなを信じていました。


みんなは初めて人間の前でサーカスをしましたが、最高の笑顔と最高のサーカスを見せてくれました。王様も王女様も楽しそうに笑い、ずっと目をキラキラさせて見ていました。
そうして「まよなかのサーカス」は人間からも愛されるようになりました。
そしてたくさんの動物たちの誇りとなりました。


「まよなかのサーカス」は、いままでと変わらず動物たちのために毎晩世界中を旅していました。
少し変わったと言えば、人間の子どもたちのためにも旅をするようになったことです。
「まよなかのサーカス」からはいつもたくさんの笑い声が聞こえ、消えることはありませんでした。


ある時、ぴっちとりたはみんなにあるお願いをしました。「えー!」みんなはおどろきましたがぴっちとりたのお願いです。みんなは協力して二人の願いを叶えてくれました。
「ありがとう!」「ばいばい!」
ぴっちとりたはうれしそうに自分たちの部屋に帰りました。


部屋にはふみちゃんが二人を待っていました。毎晩ぴっちとりたがいなくなるのでとても心配していたのです。
「にゃーにゃー」
ぴっちとりたはたくさん甘えたあと、ふみちゃんを家の外へと呼びました。


自分たちで作った服を着て準備ができたらいよいよ「ぴっちとりた まよなかのサーカス」の開演です。
みんなに教えてもらったサーカスは上手にできたかな?



長尾 琢磨(ながお たくま)
34歳 イラストレーター 愛知県名古屋市
<受賞のことば>
 いままで絵を通して、本当にたくさんの人と出会うことができました。
 今のぼくがあるのも応援してくれた人たちのやさしさと愛情のおかげです。思えば人生に絶望した時に絵本に救われたことがあります。絵本には無限のパワーがあると思います。だれかの笑顔のために、その子の未来のために、ありったけの思いをこめて、絵本を描きつづけていきたいと思います。本当にありがとうございました。

短評
 奇をてらう技の表現でもなく、特に魅了されて感動を呼ぶ話でもない。言うならば普通の絵本の姿である。しかし見過せない存在になった。温かい、優しさが伝播してくるのである。それは一番大切な心の鼓動であろう。
(杉田 豊)


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