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日産 童話と絵本のグランプリ
第26回(2009年度)入賞作品
第26回童話の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

トンノの秘密のプレゼント
作/田中 きんぎょ

「秘密の場所に、早く行かなくっちゃ!」
 子ブタのトンノは、勢いよく戸を開けると、家の外に飛び出しました。
 今日は、トンノのお母さんの誕生日です。トンノはずっと前から、お母さんへのプレゼントをちゃんと準備していました。
「トンノ、ちょっとお手伝いして」
と、お母さんが声をかけました。外で、ジャブジャブと洗濯をしているところです。
「ボクちょっと用事があって、森に行かなくちゃならないの」
「あらあら、なんの用事?」
「それはそのぉ…、だからそのぉ…」
トンノは、口をもごもごさせました。
 お母さんへのプレゼントは、森の中の秘密の場所にかくしてあります。トンノは、プレゼントを取りに、早く森へ行きたいのです。でも、プレゼントの事は、お母さんには絶対に内緒です。お母さんをビックリさせたいのですから。
 お母さんに、何て言えばいいんだろう…。
 お手伝いをせずに、プレゼントの事も秘密にして、この場を切り抜けられるような、うまい言い訳が見つかりません。
 困ったトンノは、とっさに、
「お母さん、火にかけてるお鍋が、焦げて煙がモクモクだよ。家が火事になっちゃう!」と、口からでまかせを言ってしまいました。
「それは大変!」
 お母さんは、慌てて家の中に入って行きました。
 トンノは、急いで森へ駆け出します。
 あんなウソをついちゃって、後でお母さんに怒られるかなぁ…。
 トンノは少し心配になりました。でも、きっとプレゼントをあげたら許してくれるさ、と心の中でつぶやきました。

 トンノがプレゼントをかくした秘密の場所は、山へ続く道の入り口にあります。大きな石と石の間に、ちょうどトンノの手が入るくらいの隙間があって、その中がミカンふたつ分ほどある空洞になっているのです。トンノは、いつも大事な物をかくす時には、この秘密の場所にかくします。すぐ横にある、木の切り株が目印です。
 トンノは、森の中を歩いて、切り株の近くまで来ました。すると、ウサギのおばさんが切り株に腰をかけて、編み物をしているのが見えました。
 ウサギのおばさんにプレゼントの事を知られたら、きっとお母さんに話してしまうでしょう。トンノは、どうしようかと、ちょっと考えました。
「ねぇねぇ、おばさん。ウサギの坊やが泣いていたみたいだよ」
 トンノはまた、でまかせを言ってしまいました。
「あらまぁ、どうしたのかしら?」
 ウサギのおばさんは、慌てて家へ帰って行きました。
 ウサギのおばさん、心配そうだったな…。
 トンノは、少し申し訳ない気持ちになりました。でも、坊やが泣いていないとわかったら、きっと安心するさ、と心の中でつぶやきました。

 トンノは、さっそくプレゼントを取ろうと、石の前にしゃがみました。ワクワクしながら隙間に手を入れようとした、その時です。
「よぉ、トンノ。何やってんだ?」
 その声にビックリして、トンノは飛びあがってしまいました。
 振り向くと、シカのマーキが、不思議そうな顔で見ています。
「べ、べつに何もしてないよ。ちょっとお散歩さ」
 トンノは、わざとポケットに両手をつっこんで、口笛なんか吹いてみせました。
 マーキ、早くどっかに行ってくれないかなぁ…。
 この秘密のかくし場所を、トンノは誰にも知られたくないのです。
「オレの黄色いボール、見なかったか。どっかにやっちゃったんだよ」
「黄色いボールなら、川の近くで見たような気がするなぁ」
 トンノは、本当はボールなんか見ませんでしたが、またまた口からでまかせを言ってしまったのです。
「そっか。じゃあ、川の方を捜してみるよ」
と、マーキは川の方へ走って行きました。
 一人になると、ボールを捜して川を歩いて行くマーキの姿が、トンノの頭の中に浮かんできました。そして、なかなか頭の中から出ていってはくれません。胸の奥がザワザワ、チクチクしています。胸に、何か悪い種でもささってしまったような感じなのです。
 それでもトンノは、頭の中のマーキの姿にも、胸の奥にささった種にも、気がつかないふりをしようと思いました。そうすれば、いつか消えてしまうと思ったのです。

 トンノは急いでしゃがむと、石と石の間に手をつっこみました。
「あったぁ!」
 トンノは叫びました。手には、お母さんのためのプレゼントを持っています。
 秋の高い高い空のように透きとおった、きれいな青い石のついたペンダントです。
 この青い石は、前に山でトンノが見つけて、それからずっと、お母さんにプレゼントしようと思っていたものです。何度も何度も磨いて、自分で編んだ細い縄もつけて、こっそりペンダントにしておいたのです。
 ペンダントをあげたら、きっとお母さんは驚くだろうなぁ。お母さん、喜んでくれるかなぁ。
 トンノは、大事なペンダントを落とさないように、ポケットの中にグイと押し込みました。
「トンノくん」
と、トンノの後ろで声がしました。
 ウサギのおばさんの声でした。ウサギの坊やも一緒です。
「坊やはね、さっきハチに刺されて泣いていたのよ。早く手当てができて良かったわ。ありがとうね」
 おばさんの後ろで、ウサギの坊やが、ちょっと恥ずかしそうに、頭をペコリと下げました。
 ウサギの坊やはホントに泣いていたのか、あぁ良かった…。
 でも、ウサギのおばさんの「ありがとう」を聞いたら、トンノはさっきよりも、もっと申し訳ない気持ちになりました。
「それじゃあ、さよなら」
とだけ言って、トンノはウサギの親子と別れました。
 小石を蹴り蹴り、トンノは森の中を歩いて行きます。
 ずっと気づかないふりをしていたけれど、さっき頭の中に浮かんだマーキの姿も、胸にささった種も、消えたりはしませんでした。それどころか、種は胸の中でどんどん大きくなっていくようでした。

「トンノ!」
 マーキの声がしました。トンノが振り返ると、マーキは、黄色いボールを手に持って走って来ます。
 マーキはトンノに追いつくと、ふぅふぅ、肩で息をしながら言いました。
「いやぁ、ボールが見つかってよかったぜ。ありがとな!」
「ありがとうなんて、言わなくていいんだ。川の近くでボールを見たっていうのは、ウソだったんだから」
 マーキの嬉しそうな顔を見たら、トンノは、そう言わずには、いられませんでした。
「でも、ホントに川の近くに落ちてたぜ」
「ウソで言ったのが、たまたまホントで…」
 小さな声で言うと、トンノはまた繰り返しました。
「ウサギのおばさんにもマーキにも、ウソを言ったのに、ぜんぶホントに…」
と言ったかと思うと、とつぜん、
「あ!」
と、トンノが大きな声を出しました。
「ボク、さっきお母さんに…。煙がモクモクだって、家が火事になるって…」
 トンノは、そうつぶやくと、
「ホントになったら大変だぁ!!!」
と、森にこだまするほど大きな声で叫んで、家に向かって駆け出しました。
 トンノは、ものすごい速さで、森の中を駆け抜けました。途中、何度も転びそうになりながら、枝で腕をすりむきながら、走って走って走りました。
 家の中に飛び込むと、トンノは叫びました。
「お母さぁあああん!!!」
 家の中はいつもどおりです。いつもと違うトンノの声が、響いただけです。お母さんは、いつもどおりの優しい声で言いました。
「どうしたの? そんなに大きな声だして」
「お母さん、無事だったんだね! 家は火事にならなかったんだね!」
「何言ってるの、あんなウソついて」
「ごめんなさい。あぁ、ウソがウソのままで良かったぁ。ホントにウソで良かったぁ」
 トンノは、うわぁああああああん、と泣きだしました。それでも、ポケットからペンダントを差し出すと、しゃくり上げながら、
「…お母さん…、お誕生日、おめでとう…」と、やっとの事で言いました。
 そして、今度はもっともっと大きな声で泣きました。驚いたカッコウが、森の木から落ちそうになったほど、大きな大きな泣き声でした。

田中 きんぎょ(たなか きんぎょ)
38歳 主婦 東京都世田谷区
<受賞のことば>
 この様な素晴らしい賞をいただけた事が夢のようで、まだ信じられない気持ちです。未熟な私を支え、はげましてくれた夫と娘に、心から感謝します。

短評
 苦しまぎれについた嘘に悩むトンノを、ほほえましく描いています。三回のくり返しの構成、二回は嘘がまことになりますが、最後はそうならずハッピーエンド。安定した組み立てがあり、めりはりも効いています。
(向川 幹雄)


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