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ニッサン童話と絵本のグランプリ
第24回(2007年度)入賞作品
第24回童話の部・優秀賞

お母さんの宝物
作/遠山 裕子

「あら、なつかしいわね」
 お母さんは、ビーズのネックレスを手にとってこう言った。
 ネックレスは、私が手芸クラブで作ってきたものだ。光をあてると水色に光る、われながらすてきなネックレスだった。
「これね、クラブの六年生がみんな、おそろいのビーズで作ったんだよ」
 お母さんは、ネックレスを窓からさす光に当てた。
「お母さんが里香ぐらいのころにも、ビーズのアクセサリーを作るのがはやっていたんだよ、なつかしいなあ」
「へえ、いっしょなんだね」
「こんなすてきなビーズじゃなくて、もっと大きくて、いかにもおもちゃみたな感じだったんだけどね。あれ、どこにいっちゃったんだろう……」
 お母さんは、どこか遠くを見るような目をしてそう言った。
 お母さんの子どものころなんか想像もできないけれど、とても大事な思い出なんだろうなあって思った。
 私は自分の部屋に行くと、宝物をしまっている机の一番下の引き出しに、ネックレスをいれた。

 土曜日の午後、私は弟の隆とリビングでゲームをしていた。
 玄関のチャイムがなった。おばあちゃんだ。 おばあちゃんは、リビングに入ってくると、ニコニコしながら言った。
「昨日、倉庫を掃除していたらね。なつかしいものが出てきたから持ってきたのよ」
 おばあちゃんが、テーブルの上に荷物を置いた。
 わたしと隆はなんだろうと、ゲームをやめて、テーブルのそばに行った。
 大きめの菓子箱がいくつも机の上に載っている。
 銀色に鈍く光るのはおせんべいの缶だろう。ピンク色の大きな箱は、何が入っていたのかな。
 どうやらこの菓子箱は、小学生だったころのお母さんの宝物入れらしい。手紙や絵、かわいい消しゴムに雑誌の付録の便せん。お母さんの子どものころの思い出が、たくさんつまっていた。
「わあ、こんなものまでよく残っていたわね」 お母さんは、目を細めて自分の描いた絵を見ている。
 その横で、私は変な言葉が書いてある便せんを見つけた。
『あたすたあたそたぼたうたね』
「なにこれ?」
「ああ、これはね、横にタヌキの絵が書いてあるでしょ」
「うん」
「タヌキ、タを抜いて読めってこと」
 言われたとおり、タを抜くと『あす あそぼうね(明日 遊ぼうね)』と、読めた。
「こういう遊びがはやったことがあるのよ。そうそう、これも……」
 お母さんが、半分に折ってあった画用紙を開いた。
「転校をしていく友だちがね、宝物の地図だよってくれたの」
 画用紙の左の端に『文』と書いてある。これは、学校という意味の地図記号だ。そして、真ん中に鳥居の地図記号。社会科で習ったから、これもわかる。
 鳥居の記号の上側――つまり画用紙中心の上――に、手形みたいなのがいくつも書いてある。
 その右隣に、動物――イノシシにウサギとヘビ――、そして女の子ふたり。女の子は、たぶんお母さんと友だちだろう。
「転校をして行く子がね、宝物の地図だよって、くれたの。けっきょく宝物は、見つけられなかったけど」
「これって、学校の隣にある神社のことだよね」
「そうだと思うけど、神社を探してもわからなかったの。宝物は見つけられなかったわ」 お母さんはすごく残念そうだ。
「答えを聞けばよかったのに!」
「そうね。でも、転校をしちゃった子に話を聞くことができると思わないぐらい、子どもだったのよ」
「その子って、ミノシタ マイちゃん?」
 隆がお母さんに聞く。
 よく見ると、画用紙の右下に『ミノシタ』『マイ』と二行に分けて書いてあった。
「ううん、本当は、木の下でキノシタ マイちゃんなの。あわてて書いてまちがえたのかしらね。なつかしいなあ……」
 そのあとおばあちゃんとお母さんは、いろんな昔話をしはじめた。
 私は地図をじっと見ていた。気になって、ゲームの続きなんてやってられない。
 そんな私の様子を見て、隆が言った。
「おねえちゃん、ぼくたちでお母さんの宝物を見つけようよ」
「うん!」
 わたしはお母さんに宝探しをしたいと言って、地図を借りた。
 隆といっしょに、地図をじっくりと見る。
「鳥居ってさ、神社ってことだよね」
 私がそうつぶやくと、隆が答える。
「この辺りの神社って、ひとつしかないよ。学校の隣の神社だけだもん」
「そうだよね、やっぱりそこを探すべきだよね」
 私と隆はスコップを持って、神社に向かった。

 ドキドキしながらふたりで歩く。宝物は見つけられるだろうか。
 学校の隣にある神社に着いた。ここは、お稲荷さんと蛇神様がまつってある。今はちょうど誰もいない。宝物を探しやすくていい。
 さっそくふたりで推理をはじめる。
「神社の記号が、この入り口の鳥居って考えればいいよね。この手の模様ってなんだろう」
「あれじゃないかな」
 隆が見ているのは、モミジの大木だった。
「そうか、モミジって赤ちゃんの手みたいって言うもんね。じゃあ、キノシタさん、ってことで、モミジの木の下に宝物があるんじゃない? 隆、さえてる!」
 私たちは、モミジの木の下のあたりを掘ってみた。でも、ぜんぜん宝物は出てこない。 私は掘るのをやめた。
「やっぱり違うか……。だいたいキノシタじゃなくて、ミノシタって、はっきり書いてあるんだし」
「うーん」
 隆は腕組みをして考えている。
「ミの下、マ『ミ』ムで、ムってことかな」
「ムってなんだろう」
「ムムム……」
 私たちは、ミノシタがなんなのか推理しあった。みの虫の下、美濃っていう地名もあるけど場所が違うし……、ムがつく言葉は神社にはないし……。いろいろ考えたけど、けっきょくわからなくて、帰ることにした。あーあ、がっかり。
 せっかく来たので、帰る前にお参りすることにした。最初にお稲荷さん、次にモミジの木の横にある、小さい蛇神様の社……。
 手をパンパンと打って、頭を上げたときだ。隆が、「わかった!」と、大きな声で言った。
「地図、もう一回見せて!」
 わたしはあわてて地図を広げた。
「名前の他にヒントがまだあるよ。これ見て!」
 隆は動物を指差した。イヌ、ウサギ、ヘビ……。
「あっ、もしかしてヘビ?」
「うん。これって、ヒントのヒントだと思う。イノシシはイ、ウサギはウ」
「そうか! 干支の呼びかただ。ヘビはミだから、ミノシタって、ヘビの下。蛇神様の社の下だ!」
 社は、大きな石を組んだ石段の上に建てられている。大きめの石の隙間をのぞきこむと何かが見えた。社に一礼して、手に持った枯れ枝を入れる。
 見えたものを引っかけて、慎重に枝で取り出す。少しずつ、ゆっくり、ゆっくり。時間をかけて、取り出した。
 それは、ビニールでしっかりと巻かれていた。ボロボロに硬くなったビニールをとると、何かを包んだハンカチが出てきた。ハンカチには『マイ』と、名前が書いてある。
「見つけた!」
 私たちはハンカチを持って、走って家に帰った。
 見つけたハンカチを、台所にいたお母さんに渡す。
 お母さんは、ハンカチをそっと開けた。そこにはビーズのネックレスが入っていた。
 それを見つめるお母さんの目が、じんわりと赤くなった気がした。
 ずっとずっと、見つけてもらうのを待っていたネックレス。……もしかしたら、マイちゃんとお母さんがいっしょに作った、思い出の品なのかもしれない。
「ねえ、お母さん、つけてみてよ」
 ネックレスの糸が切れないように、お母さんはそっと頭を通した。
 ネックレスは、大人になったお母さんの頭を通すには、ギリギリの大きさだった。
 ピンク色のゴツゴツしたビーズのネックレス。でも私は、世界にひとつだけしかないすてきなネックレスだな、と思った。

遠山 裕子
(とおやま ひろこ 本名・加藤 裕子)

39歳 主婦 愛知県瀬戸市
<受賞のことば>
 学生時代のことです。母が図書館で『ニッサン童話と絵本のグランプリ』の募集を知り、「書いてみたら」と勧めてくれました。気にはなっていても、出すことができなかったあの頃の自分に、「将来、応募して入賞するんだよ」と話したら、どんなにびっくりするでしょう。ありがとうございました!

短評
 よくまとまっていて、冒頭のお母さんのことばのように、全体になつかしい雰囲気がありますね。宝物が見つかるまでにもう少し曲折がほしい、という評も出ましたが、字数の制限の中ではこれで精一杯でしょうか。
(松岡 享子)


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