| 第24回童話の部・優秀賞 |
おいしい手紙
作/つかはら みさ

さえは、ランドセルをおろすなり、洗たくものをたたんでいるお母さんにいいました。
「はいはい。ちょっとまってね」
お母さんは、戸だなから、水色の便せんをとりだして、さえにわたしました。
さえには、となり町に住んでいるおじいちゃんおばあちゃんと、遠くの町にすんでいるおじいちゃんおばあちゃんがいます。となり町のおじいちゃんおばあちゃんには、会いたいときにいつでも会えます。でも、遠くの町のおじいちゃんおばあちゃんには、なかなか会うことができません。
そこで、さえは、遠くの町に住むおじいちゃんおばあちゃんに、ときどき手紙を出しました。さえは、少し前まで、まだ字を書くことが出来ませんでした。それで、字のかわりに、絵の手紙を送っていました。おじいちゃんとおばあちゃんは、さえの手紙をいつも楽しみにしてくれています。
今年の春、さえは、小学一年生になりました。学校で国語の時間に、字を習いました。だからもう、絵だけの手紙じゃなくて、字の手紙だって書けます。
さえは、真新しい勉強机の上に、便せんを広げました。
「えっ〜と、なんてかこうかな」
さえは、えんぴつをぎゅっとにぎって、一文字一文字、ていねいに書きはじめました。
おじいちゃん おばあちゃん
おげんきですか?
と、そこまで書いたとき、さえはトイレに行きたくなりました。
トイレからもどって、さあ手紙のつづきを書こうと、便せんを見ると、
「あれっ?」
さえは、目をぱちくりさせました。さっき、書いたはずの、『おげんきですか?』の字がそっくり消えています。
「へんだなあ。さっきちゃんと、かいたのに」 さえは、ふしぎそうに首をかしげました。そして、またえんぴつをにぎると、もう一度心をこめて、おげんきですか?と書きました。
おげんきですか?
さえはまいにちげんきでがっこうに
と、そこまで書いたとき、
「さえ、おやつの用意ができましたよー」
下からお母さんの声がしました。
「はーい」
さえは、元気よく返事をすると、
「つづきは、おやつをたべてからにしよ」
えんぴつをおいて、とんとんとんと階段をおりていきました。
台所でおやつのクッキーを食べていると、さえは、ふと心配になってきました。
(またさっきみたいに、字がきえていたら、どうしよう……)
さえは、急に立ち上がると、クッキーを手に持ったまま、いそいで階段をかけあがりました。
「あっ!」
さえは、びっくりして、手に持っていたクッキーを落としそうになりました。
便せんの上に、なにかいます。白くてふうせんみたいな形をしているおばけです。おばけは、長い舌をのばして、ぺろぺろと便せんをなめているではありませんか。
さえは、おばけがこわいと思うより、手紙のことが心配で、机にかけよりました。
「ああー!」
さえは、便せんを見て、大きな声を上げました。今度は、『さえもまいにちげんきでがっこうに』の字が消えています。きっと、このへんてこなおばけがなにかしたせいです。さえは、ぷうっとほっぺをふくらませ、ぎろりと、おばけをにらみました。
「ああ〜、書きたての手紙のつまみぐいは、やっぱりうまいなあ〜」
おばけは、わるびれたようすも見せずにいいました。
「えっ?手紙って、おいしいの?」
さえは、おこっているのもわすれて、おばけに聞きました。
「そうさ、心のこもった手紙の字は、たまらないうまさだね」
おばけは、うっとりとした顔でいいました。「最近は、携帯メールとかいうやつばっかりでこまるよ。ああ、あれはまずくて食えたもんじゃない。心をこめて、紙に書いた手紙のほうがうまいのにさ」
おばけは、小さく舌打ちをしました。
「でも、こころをこめてかいた手紙をたべられたら、こまるわ」
さえがおこっていうと、
「ごめん、わるかったよ……。オレ、すっごくおなかがへってたんだ……」
おばけは、からだをひとまわりちぢめて、すなおにあやまりました。
「ねえ、おなかがすいているなら、クッキーをわけてあげる。だからもう、さえの手紙をたべないで」
さえは、やさしくおばけにいいました。
「ありがと。でも、オレは、クッキーなんか食べないんだ。オレは、手紙しか食べないおばけだからさ」
おばけは、きっぱりいうと、さえの書きかけの手紙に目をやり、ぺろっと舌なめずりをしました。
「ね、ねえ、そんなに手紙をたべたいなら、じぶんでかけばいいじゃない」
さえは、あわてていいました。
「え〜、オレが手紙を書くだって〜!」
おばけは、びっくりしたようにぴょーんと飛び上がって、こまったような顔をしました。
「あれっ、もしかして、字をかけないの?だったら、わたしがおしえてあげましょうか?」
さえは、とくいそうにむねをはりました。
「フン、字ぐらいかけるさ! でも、書く相手がいない……」
おばけは、ぼそっと小さい声でいいました。
「そうだ! わたしが、おばけさんに手紙をかいてあげるわ。だから、おじいちゃんとおばあちゃんにかいた手紙は、もうたべないって、やくそくして」
さえは、手のひらを合わせて、おねがいのポーズをしました。
「よし、じゃあ今夜、その手紙を食べさせてもらいにくるからな。もし書いてなかったら、おじいちゃんおばあちゃんへの手紙を食べちゃうぞ! オレは、まだまだはらぺこなんだからな」
そういうと、おばけは、しゃぼんだまみたいに、ぱちんとはじけて消えてしまいました。
さあ、さえは大いそがしです。まず、おじいちゃんとおばあちゃんへの手紙を書くと、まちがっておばけに食べられないように、さっそくポストに出しに行きました。
そして、もう一通、今度はおばけへの手紙を書きました。
(ふふふ。おばけさん、おいしいっていってくれるといいなあ……)
真夜中、さえがねむっている部屋に、おばけがぽっとあらわれました。
「どれどれ、ふっ、おばけさんへだって……」
おばけは、くすぐったそうな顔でわらいました。
おばけさんへ
てがみのじがおいしいなんて、
おばけさんはかわってるね。
どんなあじがするのかな?
あまい? けーきみたいなあじかな。
くだものみたいなあじかな。
おばけさんはどんなあじがすき?
このてがみは、おいしいですか?
またおばけさんにてがみをかきます。
またたべにきてね。
「う〜ん、うまいうまい」
おばけは、手紙を読みながら、ペロペロペロペロ、おいしそうに食べていきました。そして、最後の一行を食べようとして、
「えっ〜、なんだって〜!」
おばけは、目を白黒させながら、その一行をもう一度読みかえしました。
おばけさん、おへんじください。さえより
机には、おばけが返事を書けるように、便せんとえんぴつがおいてありました。
「そんなこと、とつぜんいわれたってさ。いわれたってさ……」
おばけは、ブツブツいいながら、最後の一行をあじわうようにぺろ〜りとなめました。
次の朝、目を覚ましたさえは、まっさきに机の上をたしかめました。
「あっ、手紙の字がきえてる! おばけさんがたべにきたんだ」
さえは、ふふふっとわらいました。
でも、『おへんじください』と書いておいたのに、おばけからの返事の手紙はありません。さえは、ちょっとがっかりしました。
「んん? あれっ!」
よく見ると、便せんの右下の方に、なにか小さな文字が三つ見えました。
けより
「けより? けよりって、なんだろう?」
さえは、考えました。
「あっ、そうか!」
さえは、くくくっとわらいました。
「『おばけより』の『おば』の字がきえちゃったんだ……」
あれから、おばけは、ちゃんと返事を書いたんです。生まれてはじめての手紙をね。でも、あんまりおいしそうだったので、がまんできず、食べちゃったんですよ。
つかはら みさ(本名・束原 美佐) |
短評 |
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