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ニッサン童話と絵本のグランプリ
第23回(2006年度)入賞作品
第23回絵本の部・優秀賞

コートダジュールの虫歯
作・絵/仙田 まどか



森の奥の小さな家に男の子がひとりと、犬が二匹くらしておりました。
男の子の名前は、裕介。赤い毛の犬の名は、コート。青い犬の名はダジュールといいました。犬たちは、数年前までは森で暮らしていたのですが、乱暴な性格のため、つまはじきにされてしまったのです。ひとりぼっちの裕介は、その性格を知っていながら、二匹を引き受け、飼っていたのでした。さいわい、コートもダジュールもこの生活に満足していると見え、以前のような凶暴さはすっかりなくなっておりました。

しかし、心配なことがひとつありました。
じつは、最近、犬の歯に虫歯ができ、ろくにものが食べられないのです。
「よわったなあ。これじゃあ、栄養失調になってしまう。どこかにいい薬はないものか」
裕介はため息をつきました。


ある日のことです。
裕介が仕事を終え、帰る途中に見知らぬ建物が建っていました。
全体が緑の草で覆われ、中からはふしぎなにおいがただよっています。
中からはこんな歌が流れてきました。
「万病に効くくすり くすりはいらんかね おためし おためし いまなら ひとびんさしあげます」
裕介はすいこまれるように中に入っていきました。


「お待ちしておりましたよ、お客さま。あなたは歯の治療薬をおさがしではないですか」
白い着物を着た男が裕介に近づき、ゆっくりとそういいました。
「ええ。よくわかりましたね。実は飼い犬の歯の調子が悪いんです。」
「それでは、このお薬を飲ませておあげなさい。きっと良くなるでしょう。」
「ありがとう。さっそく試してみせますよ」


家に帰るとすぐに裕介は、犬の口をあけ、薬を一滴ずつ、虫歯に塗りました。


「いたい いたい なんだ なんだ」
薬を塗り終えたとたん、まず、ダジュールが飛び上がって階段をおりていきました。
つづいて、コートが顔を抑え、その抑えた手がなまっちろい人間の手だったものですから、とてもあわて、
「やあ、なんだい、このぐにゃぐにゃしたものは」そういい、階段を下りていきます。
二匹の手足がくっきりと人間の手足になり、二匹はどったん どったんととびあがります。
「やあ、はずかしい。こんな姿をみられたくない」
「裕介ぼっちゃんに顔をあわせられない、さよなら」
そういって逃げていきました。


犬が去って数日後、裕介は野原で仕事をしていました。
「あいつたち、どこへいったんだろう。あの手足はなんだ?あの薬のせいか?もう治っているだろうか」
裕介は、つぶやきながら草を集めています。

コートとダジュールはそんな裕介の姿を木の後ろから見ていました。
二人とも、自分たちの手足をくねくねと満足そうに動かしました。
「なあ、ダジュールよ、なんだかとてもいいにおいだぜ。」
「ああ。ぼっちゃんのにおいだよ。みてごらん、あの腕、あの足。とてもうまそうだ。」
コートはよだれをおとしました。
「半犬 半人になったとたん、ぼっちゃんが食い物にみえるため、ふしぎなもんだ。」
「ああ。世話になっといて食っちまうのも、気の毒な話だが、どうもこの食欲はおさえられねえ」
「かみつきたいけど、まだもう少しふとらにゃあおいしくないかもな」
「よし、ぼっちゃんをふとらそう」


翌日、二匹の犬はマスクをつけ、裕介のところへ行きました。
裕介は喜びましたが、犬たちは、食物貯蔵庫からひょっこりと顔だけ出し、しんみょうな顔つきをしています。
少しでもにおいをかぐと、ぱくりと飲み込んでしまいそうだからです。
「ぼっちゃん、ひさしぶりです」
「コート、ダジュール、戻ってきてくれたのかい」
「ええ。ぼっちゃん。あっしはやはりぼっちゃんが一番でさあね。さあ、こっちへきていっしょに話でもしましょうね。」
「あっしたちは、半分犬、半分人間になったのですから、ぼっちゃんともたくさんお話ができるんですよ。どれ、食事でもしながらいろいろと語りあいましょうや」
二匹はよだれを気にしながらいいました。
裕介はそんな二匹をみながら、少し考え、
「そうだね。二人としゃべれるなんて、楽しそうだ。お祝いに、池神様のお水をくんで乾杯しようよ。」
といい、森へいく準備をすることにしました。


裕介が森の中へやってくると、動物たちが集まって、ひそひそ話をし始めました。
「あの子だ。裕介だ。やれやれ、自分の犬に食われることも知らずにのんきにやってきたよ。」
「かわいそうな子だ。あの薬屋にからかわれたとも知らずに。」
「このままほっといてもいいが、コートとダジュールにやられっちまうのもおかわいそうだ。どら、ひとつ救ってやるとするか」

「おーい おーい ぼっちゃん こっちへおいで。池神様のお水はここにたっぷりくんであるよ」
「ほんとうかい?」
裕介は声のするほうをまぶしそうに見つめました。
「ああ ほんとうだ こっちへきて、しゃがんでお祈りしなよ。お水を持ってきてやるから」


裕介は、小高い丘に行き、じっとしゃがみました。
「水はまだかい?」
すると、そこにとんぼやちょうが群がり、
「もうすこし、もう少し、じっとしてごらんなさい。」
といいました。
そして、池のまわりでは、動物たちが、
「ほーら ほーら 生えろ、生えろ」
と、丘に向ってささやき続けました。
すると裕介のおしりからしっぽが生えてきました。
「くすりやを やっつけろ そうしなきゃ あんたはくわれちまう コート と ダジュール に」
とんぼや亀やトカゲや蛇が歌います。


裕介は半分犬になったからだをもてあまし、ふらふらと薬屋に向いました。
「ややっ。あんたは、犬になっちまったのかい」
白い着物を着た男がいいましたが、裕介は、何もいわず、尾をひとふり。
あっという間に、小屋ごとひっくりかえってしまいました。
「ひゃあ、わるかった。犬は元にもどすよ。いま、まじないをかけたから。命だけはごかんべんを。」
「ようし、二度といたずらをするなよ」
裕介はそういって、男を逃がしました。


小屋と男の姿は跡形もなく、消え去りました。
むこうのほうから、元の姿になったコートとダジュールがかけてきました。二匹とも、息をきらし、はあはあいっているだけで、人間の言葉はしゃべりません。
「コート、ダジュール、おまえたち、ぼくを食べるんじゃないよ。
まったく、虫歯には、気をつけなきゃな」
そうつぶやきながら、二匹の犬の元にかけよりました。


仙田 まどか(せんだ まどか)
30歳 秘書 京都府京都市
<受賞のことば>
 憧れのコンテストでこのような素敵な賞を頂くことができ、感激しております。愛犬をモチーフに何か話を作りたいという強い思いだけで突っ走った手さぐり状態の製作でした。絵と話のバランスにいつも難しさを感じています。この度の受賞はこれからの創作に向けての一層の励みとなりました。ありがとうございました。

短評
 力強い筆づかいには、人間の内面にたまる澱やくすぶる火を外へ吐き出すような勢いと、何かを訴える力が感じられる。これからは場面をつなぐ〈絵本〉としての展開を勉強されることを期待したい。
(向川 幹雄)


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