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日産 童話と絵本のグランプリ
第23回(2006年度)入賞作品
第23回童話の部・大賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

ホタルの川
作/大 槻  瞳

 本当なら冬は楽しい季節のはずなんだ。冬休みになるし、クリスマスがあるし、お正月があるし、雪も降るし、何よりぼくたちの誕生日がある。
 十二年前、ぼくと親友の直樹は一日違いで生まれた。今日がぼくの、明日が直樹の誕生日だ。
 毎年この日は、日付が変わるころにこっそり家を抜け出し、二人だけで誕生日を祝うことにしている。一年で一番楽しい日のはずだった。
 それなのに、今日は最悪の気分だ。さっきからため息ばかり出る。それというのも、おとといからずっと、直樹とケンカをしているからだ。天気までどんよりと曇って、いっそう気が滅入る。


 ケンカの原因は直樹が、真冬にホタルを見たことがあると言い出したことだった。
「おれ、ちょうど今ぐらいの時期にさ、ホタルを見たことあるよ」
「ホタル?」
「そう。まだ小さいときだから、どこだったか忘れちゃったけど。どっかの川でさ、光が舞ってたんだよ」
 ぼくは思わず吹き出した。
「バカだなあ。冬にホタルはいないよ」
「いたんだよ。おれ、見たんだもん」
「テレビで見たんじゃないの?」
「そんなんじゃないよ。外で寒くって震えながら、でも、きれいだなあって思ったの覚えてるもん」
「じゃあ、夏に見たのを冬に見たって、かんちがいしてるとか・・・・」
「信じないのかよ」
 直樹ににらまれて、ぼくは少しひるんだ。
「・・・でもさあ、ホタルは夏に出るもんだろ」
「そうだけど・・・・。見たんだから、しょうがないだろ」
 いつもならあっさりと間違いを認める直樹が、この日は引き下がらなかった。だんだん気まずくなって、無言で別れた。こういう雰囲気はいやだ。つかみ合いのケンカになった方が、まだましだ。

 その日の夜、父さんにきいてみた。
「ねえ、冬に光るホタルっているかなあ」
 父さんは読んでいた新聞を下ろした。
「おいおい。ホタルは夏だぞ。慎吾はそんなことも知らないのか」
「知ってるよ。ただ、いるかなって思っただけだよ」
「だめだぞ、ちゃんと勉強しないと。ホタルっていうのはなあ」
「いいよ、わかったよ」
 ぼくも冬にホタルがいるわけないと思っていたけど、頭から決めつけられるとむかついた。父さんだって、そんなに虫にくわしいわけじゃないのに。
 怒って自分の部屋のドアをバタンと閉めたとき、ぼくはやっと、直樹も同じ気持ちだったのかもしれない、と気がついた。
 謝らなきゃと思ったけど、直樹は昨日も今日も学校へ来ていない。
 直樹が学校をさぼるのはめずらしいことじゃない。天気が良かったとか、猫がいたとか、いろんな理由で学校へ来たくなくなってしまうらしい。
 でも、そんなときは決まってぼくにも声をかけてくれる。校門や下駄箱で、ぼくが来るのを待っていて、「遊びに行こう」って言うんだ。何も言わずに学校へ来ないのは初めてだった。
 直樹の家へ行ってみればよかったんだけど、時間がたつほど行きにくくなって、勇気が出ないまま誕生日の夜を迎えてしまった。

 夜になると空気が凍りついたようで、今にも雪が降り出しそうだ。父さんも母さんも寝てしまい、家の中はしーんとしている。ぼくはなかなか眠れずにいた。
 今日このまま直樹に会わなかったら、ずっと仲直りできないかもしれない。やっぱり直樹の家へ行こうと思って起き上がると、窓にコツッと何かが当たる音がした。
 窓を開けると、冷たい空気が吹き込んでくる。
「慎吾」
 声のした方を見ると、直樹がいた。横に自転車を止めて、手に石ころを握っている。ぼくが気づいたのを見て、手で「降りてこい」という仕草をした。
 ぼくは急いで着替えると、そうっと家を抜け出し、マンションの非常階段を降りた。自転車置き場へまわって、自転車を引いてくる。
 直樹はぼくを見るとうなずいて、自転車にまたがり、走り出した。ぼくもすぐ後に続く。
「どこへ行くの?」
 息が白くなる。
「少し遠いけど、おれがホタルを見た川」
「ホタルを見た川?」
「うん。昨日と今日、探し回ってやっと見つけたんだ」
「じゃあ、それで休んでたんだ」
 少しホッとした。直樹はシシシと笑う。
「うん。内緒で見つけたくてさ。慎吾、全然信じてねえんだもん。今夜なら絶対見れるからさ」
「いくら何でもこんなに寒いんじゃ」
「見てのお楽しみ」
 そう言うと、直樹はスピードを上げた。しばらく走ると知らない町に入った。ふだんぼくたちが遊ぶあたりよりも、だいぶ遠くだ。
 だんだん家が少なくなって、野原を通る小道にさしかかったころ、とうとう雪が降り出した。
「直樹、雪降ってきたよ」
「うん。雪が大事なんだ」
 小道は森へと続いている。ぼくたちは入口で自転車をとめて、その先は歩いていった。
 直樹は準備よく、懐中電灯を取り出して道を照らした。森に作られた遊歩道を進む。
「どこまで行くの?」
「もうすぐ」
 直樹の言葉どおり、水音が聞こえてきた。ぼくたちは遊歩道をそれ、水音の方へ向かう。それほど大きくない川が流れている。直樹は懐中電灯を消した。
「これがおれの見たホタル」
「・・・・川が光ってる・・・・」
 川は一面、ぼうっと青く光っていた。その光が降りしきる雪にうつり、雪が青く輝いているように見える。いくつもいくつも空から青い光が降りてくる。
「このへんの石は夜光石を含んでる。それでこんなふうに青く光るんだ」
 風にあおられ不規則に舞う雪は、入り乱れて飛ぶホタルのようだった。
「・・・・ごめん。疑ったりして」
「ううん。おれも、ごめん。ホタルだと思ってたけど、ホタルじゃなかったんだ」
「これじゃ思い込むのも無理ないよ」
 雪はいつまでも降り続き、青い光は生まれては川に吸い込まれて消えていった。
「行こう。このままじゃ雪だるまだ」
 いつの間にか、頭にも肩にも雪が積もっている。ぼくと直樹は顔を見合わせて笑った。
「誕生日おめでとう」

大 槻  瞳(おおつき ひとみ)
28歳 会社員 神奈川県川崎市
<受賞のことば>
 したくてもできないこと、あったらいいなと思うことを物語にすることが大好きです。
 今回、大賞という素晴らしい賞をいただけたということは、そんな「あったらいいな」に共感してくださったのかなと思うと、とても嬉しいです。ありがとうございました。

短評
 少年の友情が爽やかに描かれました。真冬に蛍を見たという親友をつい笑ったぼく。それからの戸惑いと後悔を丁寧に掬い上げています。夜光石を含む川に反射する雪の美しさは、幻のよう。結びに快い余韻が残りました。
(あまん きみこ)


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