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ニッサン童話と絵本のグランプリ
第23回(2006年度)入賞作品
第23回童話の部・優秀賞

雪ダルマの雪がふってくる
作/小島 洋子

 ジュンくんは、春にこの町へやってきた。四年二組の転校生。つまり、わたしのクラスメートだ。
 かえり道がいっしょなので、ご近所さんだとわかったの。最初からジュンくんは、
「おい、アユミ」
 わたしを名前でよんだ。
「おまえ、色白いな。雪みたいだな」
 いきなりそんなこといった。門の前から、わたしの家をジロジロ見まわした。
「おまえんとこ、でっけぇな。うらが空き地だし。日があたって、風も通りよるだろ?」
 言葉にちょっとナマリがある。
「このへん、家ばっかごちゃごちゃでよ。おれ、まだ自分とこがよくわからんで」
 一人でしゃべって、公園を見て、
「あっ、サッカーやってら。入れろよーっ」
 さよならもいわずに走っていった。
 ヘンな子。わたし、そう思った。


 夏休みには、ジュンくんはコーラみたいにまっ黒け。学校のプールへ通ってた。
 うちの前を通るとき、
「アユミーッ、プール行かんか」
 大声でさそうんだ。わたし、はずかしくって。子供会のサイクリングにも、町内会のキャンプにも、
「アユミーッ、いっしょに行かんか」
 ママはにが笑いしてたけど、
「ごめんね。アユミ、あんまりじょうぶじゃないからね……」
 ことわりながら、ざんねんそうな顔だった。

 二学期になると、ジュンくんは、
「なんだよ、おまえ、まっ白けでよ」
 うらめしそうに、わたしを見た。体育の時間、わたしが見学してたら、
「おまえ、細っこすぎるんで」
 かならず、何か、ひとこといった。わたしが保健室でねてたら、
「ちゃんと食えよな」
 給食をもってきてくれた。わたしが食べるのを、見はるようにそばにいた。そのくせパンをのこしたら、
「もらってやら」
 食べちゃうんだ。
 運動会では大かつやく。長い足でぎゅんぎゅん走った。学年せんばつリレーに出て、六年生をおいこした。そのあと、
「おれのおかげで勝てたんでい!」
 いばったせいで、上級生ととっくみあいのケンカになった。すぐにケロッとなかなおりしてたけど。

 冬が来ると、ジュンくんは、
「ここは、雪、ふらんかな」
 しょっちゅう空を見あげてた。前に住んでた町は、雪がどっさりつもったって。
「雪って、おもしれんだぞ。冷たいくせに、あったかいんで」
 ふうん。わたし、わかんない。このへん、ふったことないもん。
「ああ、でっかい雪ダルマ作りてぇ……」
 ため息のようにそういった。空の遠くを見る目をしてた。わたし、なんだかむねがツンとした。だから二月のはじめ、ジュンくんが、
「おれ、でっかきゃ何チョコでもいいぞ」
 バレンタインデーのチョコレートをさいそくしたとき。つい、思ってしまったの。
 手作りチョコにしようかなって。
 白い、雪ダルマの形の。

 ホワイトチョコを、おナベでとかす。
 さましてナプキンにしぼり出す。
 かたまりかけたら丸くする。大きな丸と、小さな丸。二つくっつけて、できあがり。
 それだけのことなのよ。わたしは自分にいいきかせた。何度も何度もしっぱいしながら。
 チョコはやわらかすぎると丸まらない。かたまりすぎたらわれてしまう。大きな丸は、がんばってテニスボールくらいになった。
 小さな丸は、大きすぎると、ころげちゃう。おっとっと。またやりなおし。バレンタインデー、明日だってのに。
 ビー玉くらいにしてみたら、やっと、なんとかくっついた。ブラックチョコで目をつけて、わぁい、できた!
 ずいぶん小顔の雪ダルマだ。それでも、わたしはホッとした。ホッとしすぎて、よくばった。まゆ毛も、口も、つけようって。
 太くなったり、ゆがんだり。顔じゅうにダラダラ流れたり。ああもう……、
「アユミ、いいかげんにしなさい!」
 ママがおこってる。もうすぐ十時。だけど、ほら。キリッと、いい顔にしあがった!
 箱に入れてラップして、レースのリボンをかけた上から、わたしはチョコをなでていた。
 わたしたのは、かえり道。
「うひょぉ!アユミのチョコ、ゲット!」
 ジュンくんは、リボンをはずしてラップをやぶいた。箱のフタをあけるなり、
「でっけー!お、へんな顔した雪ダルマ」
 大口あけて笑った。
「だっはっはっはっ」
 わたし、走って家へとびこんだ。
「あれっ、おいアユミ」
 二階の部屋へかけあがった。
「アユミーッ」
 ピンポーン、ピンポーン。ジュンくんがチャイムをならしてる。ママと何やら話してる。
「アユミ、ジュンくんがありがとうって」
 階段の下から、ママが声をかけてきた。
「うん。わかったっていっといて」
 わたし、声だけかえしておいた。パタンと、ドアのしまる音……。
 ジュンくん、かえっちゃったんだ。
 わかってなんかやんないって!ジュンくんの、バカーッ!
 あんなの、ギ……、ギリチョコなんだから。
 わたしはベッドにねころんだ。ジンと、まぶたがあつくなる。むねの中はシンと冷たい。キシキシと、心のこおる音がする。
 いや、この音は……。シトシトシト。なんだ、雨がふってる音か。
 ふるな!雨なんか。こおってしまえ。空も町も世界中、みんなこおっちゃえばいい。
 やつあたりしながら目をとじた。なみだがあふれてポロンとおちた。

 さむい!
 目がさめた。いつのまにかねてたんだ。うす暗いけど、もう夕方?
 まどを見ると、ガラスのむこうに花びらみたいなのがひらひらしてる。何かしら?
 まどをあけた。うわっ!そこらじゅうがまっ白だ。屋根も、かきねも、地面も白い。
 目の前いっぱいに、ひらひらふっているのは雪。大雪だぁ!
 でもまさか。この町に雪がふるなんて。
 もしや、これ……わたしのせい?
 わたしがやつあたりしたせいで、雨がこおって雪になったの? 空も、町も、世界中が、もしかしたらこおっちゃったの?
 雪はどんどんふってくる。リボンみたいなレースもようをからまりあわせて……きれい。
 わたしはうっとりと、こおった世界を見まわした。と、うらの空き地にだれかいた。
 雪の上でごそごそしてる。目をこらしたら、
「おお、アユミーッ」
 だれかさんは、ジュンくんだった。
「来いよーっ。雪ダルマ、雪ダルマ」
 雪ダルマ?
 ジュンくんが、おいでおいでをくりかえしてる。わたしはジャケットをひっかけた。階段をドドドとかけおりた。ドアをあけると、
「アユミ、雪ふってるのよ。出ちゃダメよ」
 ママの声をふりきって、うらの空き地へまっしぐら。ジュンくんは、雪の玉を作ってた。
「ベタ雪だな、くっそお。土がつきよる。おいこら、もっとしっかりふらんかい!」
 空にもんくをいいながら。
「アユミ。おまえ、頭のほう作れ」
 わたしは雪に手を入れた。指がチリッと痛い。ポンと、ごっつい手ぶくろがとんできた。
「ほらよ」
 マフラーも、ふんわり首にまきついた。ジュンくんのぬくみであったかい。
 うふふふふ。なんでかしら笑えちゃう。
「でへへへ」
 ジュンくんも笑ってる。笑いながら、わたしたちは雪の玉をころがした。あっちへこっちへころがした。体がポカポカしてきた。
「雪、少ねえから、こんなもんかな」
 ジュンくんの雪玉は、ヒザの高さほど。その上に、わたしのを乗せると……。やっぱり小顔の雪ダルマ。
「よし。美人にしてやらぁ」
 ジュンくんは、石で目をつけた。小枝で鼻をこしらえた。かれた葉っぱをまゆ毛にした。見たことないほどひどい顔。どこが美人よ。
 ジュンくんはわたしを指さした。
「けけけ。似てら」
 あっ。こらーっ!
「チョコレートのおかえしでい。あの雪ダルマ、おれの顔だろうが」
 え?そんなつもりじゃ……。わたしが何かいうより先に、ジュンくんは、
「この雪、おまえがふらせたんだな」
 マジメな顔でそういった。ふってくる雪を、パクッと口でうけとめた。
「んめぇ!雪ダルマチョコの味がすらぁ」
 ふっくら丸いボタン雪。ほっこりほわほわおちてくる。雪と雪とがくっついて、雪ダルマの形に見えてくる。
 世界中に、今、小さな雪ダルマの雪がふっている。
 わたし、そんな気がした。

小島 洋子(こじま ようこ)
53歳 会社員 奈良県奈良市
<受賞のことば>
 めったに雪のふらない町で育ちましたので雪は私の憧れです。雪の話ですばらしい賞を頂けてとても嬉しいです。本当に有難うございました。

短評
 ジュンの明るくこだわりのない性格を、季節を追いながらテンポよく表現した点がいい。また終末部「世界中に、今、小さな雪ダルマの雪が・・・・・・」に込められた作者の願いが胸をうつが、人物の描き方に深みがほしい。
(向川 幹雄)


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