| 第23回童話の部・優秀賞 |
雪ダルマの雪がふってくる
作/小島 洋子
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ジュンくんは、春にこの町へやってきた。四年二組の転校生。つまり、わたしのクラスメートだ。 |
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夏休みには、ジュンくんはコーラみたいにまっ黒け。学校のプールへ通ってた。
うちの前を通るとき、
「アユミーッ、プール行かんか」
大声でさそうんだ。わたし、はずかしくって。子供会のサイクリングにも、町内会のキャンプにも、
「アユミーッ、いっしょに行かんか」
ママはにが笑いしてたけど、
「ごめんね。アユミ、あんまりじょうぶじゃないからね……」
ことわりながら、ざんねんそうな顔だった。
二学期になると、ジュンくんは、
「なんだよ、おまえ、まっ白けでよ」
うらめしそうに、わたしを見た。体育の時間、わたしが見学してたら、
「おまえ、細っこすぎるんで」
かならず、何か、ひとこといった。わたしが保健室でねてたら、
「ちゃんと食えよな」
給食をもってきてくれた。わたしが食べるのを、見はるようにそばにいた。そのくせパンをのこしたら、
「もらってやら」
食べちゃうんだ。
運動会では大かつやく。長い足でぎゅんぎゅん走った。学年せんばつリレーに出て、六年生をおいこした。そのあと、
「おれのおかげで勝てたんでい!」
いばったせいで、上級生ととっくみあいのケンカになった。すぐにケロッとなかなおりしてたけど。
冬が来ると、ジュンくんは、
「ここは、雪、ふらんかな」
しょっちゅう空を見あげてた。前に住んでた町は、雪がどっさりつもったって。
「雪って、おもしれんだぞ。冷たいくせに、あったかいんで」
ふうん。わたし、わかんない。このへん、ふったことないもん。
「ああ、でっかい雪ダルマ作りてぇ……」
ため息のようにそういった。空の遠くを見る目をしてた。わたし、なんだかむねがツンとした。だから二月のはじめ、ジュンくんが、
「おれ、でっかきゃ何チョコでもいいぞ」
バレンタインデーのチョコレートをさいそくしたとき。つい、思ってしまったの。
手作りチョコにしようかなって。
白い、雪ダルマの形の。
ホワイトチョコを、おナベでとかす。
さましてナプキンにしぼり出す。
かたまりかけたら丸くする。大きな丸と、小さな丸。二つくっつけて、できあがり。
それだけのことなのよ。わたしは自分にいいきかせた。何度も何度もしっぱいしながら。
チョコはやわらかすぎると丸まらない。かたまりすぎたらわれてしまう。大きな丸は、がんばってテニスボールくらいになった。
小さな丸は、大きすぎると、ころげちゃう。おっとっと。またやりなおし。バレンタインデー、明日だってのに。
ビー玉くらいにしてみたら、やっと、なんとかくっついた。ブラックチョコで目をつけて、わぁい、できた!
ずいぶん小顔の雪ダルマだ。それでも、わたしはホッとした。ホッとしすぎて、よくばった。まゆ毛も、口も、つけようって。
太くなったり、ゆがんだり。顔じゅうにダラダラ流れたり。ああもう……、
「アユミ、いいかげんにしなさい!」
ママがおこってる。もうすぐ十時。だけど、ほら。キリッと、いい顔にしあがった!
箱に入れてラップして、レースのリボンをかけた上から、わたしはチョコをなでていた。
わたしたのは、かえり道。
「うひょぉ!アユミのチョコ、ゲット!」
ジュンくんは、リボンをはずしてラップをやぶいた。箱のフタをあけるなり、
「でっけー!お、へんな顔した雪ダルマ」
大口あけて笑った。
「だっはっはっはっ」
わたし、走って家へとびこんだ。
「あれっ、おいアユミ」
二階の部屋へかけあがった。
「アユミーッ」
ピンポーン、ピンポーン。ジュンくんがチャイムをならしてる。ママと何やら話してる。
「アユミ、ジュンくんがありがとうって」
階段の下から、ママが声をかけてきた。
「うん。わかったっていっといて」
わたし、声だけかえしておいた。パタンと、ドアのしまる音……。
ジュンくん、かえっちゃったんだ。
わかってなんかやんないって!ジュンくんの、バカーッ!
あんなの、ギ……、ギリチョコなんだから。
わたしはベッドにねころんだ。ジンと、まぶたがあつくなる。むねの中はシンと冷たい。キシキシと、心のこおる音がする。
いや、この音は……。シトシトシト。なんだ、雨がふってる音か。
ふるな!雨なんか。こおってしまえ。空も町も世界中、みんなこおっちゃえばいい。
やつあたりしながら目をとじた。なみだがあふれてポロンとおちた。
さむい!
目がさめた。いつのまにかねてたんだ。うす暗いけど、もう夕方?
まどを見ると、ガラスのむこうに花びらみたいなのがひらひらしてる。何かしら?
まどをあけた。うわっ!そこらじゅうがまっ白だ。屋根も、かきねも、地面も白い。
目の前いっぱいに、ひらひらふっているのは雪。大雪だぁ!
でもまさか。この町に雪がふるなんて。
もしや、これ……わたしのせい?
わたしがやつあたりしたせいで、雨がこおって雪になったの? 空も、町も、世界中が、もしかしたらこおっちゃったの?
雪はどんどんふってくる。リボンみたいなレースもようをからまりあわせて……きれい。
わたしはうっとりと、こおった世界を見まわした。と、うらの空き地にだれかいた。
雪の上でごそごそしてる。目をこらしたら、
「おお、アユミーッ」
だれかさんは、ジュンくんだった。
「来いよーっ。雪ダルマ、雪ダルマ」
雪ダルマ?
ジュンくんが、おいでおいでをくりかえしてる。わたしはジャケットをひっかけた。階段をドドドとかけおりた。ドアをあけると、
「アユミ、雪ふってるのよ。出ちゃダメよ」
ママの声をふりきって、うらの空き地へまっしぐら。ジュンくんは、雪の玉を作ってた。
「ベタ雪だな、くっそお。土がつきよる。おいこら、もっとしっかりふらんかい!」
空にもんくをいいながら。
「アユミ。おまえ、頭のほう作れ」
わたしは雪に手を入れた。指がチリッと痛い。ポンと、ごっつい手ぶくろがとんできた。
「ほらよ」
マフラーも、ふんわり首にまきついた。ジュンくんのぬくみであったかい。
うふふふふ。なんでかしら笑えちゃう。
「でへへへ」
ジュンくんも笑ってる。笑いながら、わたしたちは雪の玉をころがした。あっちへこっちへころがした。体がポカポカしてきた。
「雪、少ねえから、こんなもんかな」
ジュンくんの雪玉は、ヒザの高さほど。その上に、わたしのを乗せると……。やっぱり小顔の雪ダルマ。
「よし。美人にしてやらぁ」
ジュンくんは、石で目をつけた。小枝で鼻をこしらえた。かれた葉っぱをまゆ毛にした。見たことないほどひどい顔。どこが美人よ。
ジュンくんはわたしを指さした。
「けけけ。似てら」
あっ。こらーっ!
「チョコレートのおかえしでい。あの雪ダルマ、おれの顔だろうが」
え?そんなつもりじゃ……。わたしが何かいうより先に、ジュンくんは、
「この雪、おまえがふらせたんだな」
マジメな顔でそういった。ふってくる雪を、パクッと口でうけとめた。
「んめぇ!雪ダルマチョコの味がすらぁ」
ふっくら丸いボタン雪。ほっこりほわほわおちてくる。雪と雪とがくっついて、雪ダルマの形に見えてくる。
世界中に、今、小さな雪ダルマの雪がふっている。
わたし、そんな気がした。
小島 洋子(こじま ようこ) |
短評 |
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