| 第22回童話の部・優秀賞 |
ネコの野球部
作/藤谷 久美子
|
ひかり町スポーツ少年団の野球部は、三年生から入部できることになっている。だから、二年生のぼくは、まだ入れてもらえない。でも、小さいころから、野球好きの父さんにきたえられてきたので、ちょっと自信があった。 |
|
「新矢さんは、野球がおじょうずなのにどうしてチームに入らないのですか?」
(えっ、このネコぼくのこと知ってるらしいぞ。そういえば、どこかで見たネコだなあ)
つやのあるこん色の毛なみにオレンジ色の目、たてじまもようのユニフォームに赤いベルト、赤と黒のツートンカラーのぼうしには、見おぼえがあった。
「あっ、父さんのおみやげの……」
ぼくが幼稚園の時、出張でアメリカに行った父さんが、買ってきたぬいぐるみのネコにちがいなかった。ずっと、勉強つくえの本だなの右はしに置いていた。でも、あの時、ごみ箱にすてたはずだった。
「はい。ところで新矢さんのお父様、このごろどうされましたか?お見かけしませんが」
「父さんは、たんしんふにんで遠くに行っちゃったんだ。ぼくが五年生になったら、帰ってくるはずなんだけど……ときどき、休みの日には帰ってくるけど……」
「そうでしたか、どうりで新矢さんとお父様が、野球の練習をされなくなったのですね」
「うん。それに、ひかり町の野球部は三年生にならないと入れないんだ」
「では、どうです? 新矢さん、わたしたちの野球部で練習されませんか?」
「わたしたちって……ネコの野球部?」
「はい。わたしたちもえないごみの日に、朝練習をしているんです」
ぼくが、ネコのぬいぐるみをすてたのは、母さんにしかられて、かっとなってしまったからだった。たった一回だけ、野球部の練習を見ててそろばん教室さぼっただけなのに。
さぼったのは、ぼくがわるいんだけど…。
(父さんが、いなくなるからいけないんだ)
でもぼく、『母さんをこまらせないように』って言われてたんだっけ。
「母さん、次のもえないごみの日、いつ?ぼくが、ごみ出しに行くよ」
「えっ、あさっての朝だけど……新ちゃん…いったいどうしちゃったの?」
「いいから、いいから……おてつだいだよ」
水曜の朝、ぼくは目をさますと、トレーナーとジーパンに着がえた。そしてグローブとごみぶくろを持って、グランドのバックネットうらにある、ごみステーションへ向かった。
ちょうどこの前のぬいぐるみネコが、空きカンを、つみ重ねているところだった。二十個くらいはあるだろう。『マタタビエース』という、高級そうなキャットフードのカンの内がわは、ぴかぴかにかがやいていた。
「何してるの?」
「新矢さんがおそいから、空きカンならべをしてたんですよ。梅本さんちのシャムは、たいそうなグルメなのに食べ方があらくて……おかげでわたしたちは、ごちそうのおこぼれをいただいてますけどね……新矢さん、もう、始まってますよ。ついてきてください」
言い終わったネコは、そこにあった大きな青いポリバケツに飛びこんだ。ぼくは、あわててそのあとをのぞきこんだ。バケツのおくから巨大なネコの目がこっちを見ていた。
その目がまばたきすると、まぶしい光がふきだして、ぼくは、くらくらしてしまった。
気がつくと、ぼくはバッターボックスに立っていた。いつものグランドなのに、ちょっとちがう気がする。地面が緑のしばふになっているからだ。ネコの野球部は、みんなたてじまユニフォームを着て二本足で立っていた。せの高さは、ぼくと同じくらいだろう。
「ゴロゴロ、ゴロゴロ、ニャーッ!」
ピッチャーのネコが、『しまって、いこうぜー!』って、言った気がした。グレーのしまもようがきれいな、外国のネコだ。細い目がキランとした。ふりかぶって投げたのは、ど真ん中のストレート!
「カキーン」
あたりはライナーで三遊間へ。でも、ボールは横っとびしたショートのヒマラヤンのグラブの中へ。茶色い長めの毛がゆれて、かっこいい。まるでプロ野球選手のような動きに、ぼくは見とれてしまった。
「ナイス、ショート!」
立ち上がってキャッチャーマスクを取ったのは、ぬいぐるみネコだった。あれ、このネコもぼくと同じくらいの身長になってる。
「新矢さん、しばらく、つづけましょう」
ぼくはあと二十本くらい、バッティング練習をさせてもらった。
しばふの上には、緑の目をしたまっ白のペルシャ、絵本で見たような丸い目の黒ネコ、いつも電柱のかげにいるぶちネコやミケネコが、まもりについていた。レフトで一匹だけ、のんきにねそべっているのが、梅本さんちのシャムらしい。顔はほっそりとしているのに、食べすぎのせいか、体がプニョンとして動きがにぶかった。
「新矢さんは、なかなかのバッターですね」
「えへん。ああ、おもしろかった」
「でも、新矢さん。野球は打つのがじょうずなだけじゃいけません。まず、練習におくれないことです」
ネコはニッと笑うと、ウインクをした。
つぎに、しゅびの練習が始まった。セカンドについたぼくは、ぬいぐるみネコのノックを、右へ左へよく動いてさばいた。ほかのネコたちも、うまかったけど。
「新矢さんは、しゅびもじょうずですね。でも、野球は動きがいいだけじゃいけません。しっかり、おなかから声を出してください」
ネコがニッと笑顔でウインクした。そのあと、バントの練習をした。ぼくはあまりやったことがなかったけど、ネコたちのまねをして、やってみた。コツンと当ててすばやく走るのが、おもしろかった。
「新矢さんはバントのセンスもなかなかですね。でも野球はセンスがいいだけじゃいけません。バットをほうり投げないようにしてください。ねこじゃらしがぺしゃんこです」
ネコはニッと笑うと、ウインクをした。
・・・カン、カン、カンカン、カンカン・・・
ふみきりの音が聞こえてきた。
「今日の練習は、ここまで。集合!」
ぬいぐるみネコがひげをピンとさせて言うと、野球部のネコたちは、ホームベースの前に集まった。『ゴロー、ニャーッ』と、おじぎをして、草むらの方へ走り出した。そして、次々と大ジャンプして消えていく。
「新矢さんも、また来てください。あっ、それから魚を食べてくださいねっ! おいしくて、体にいいですよ」
ぬいぐるみネコはそう言うと、ジャンプして消えた。おいかけていくと草の中に、さびて台のゆがんだトランポリンが置いてあった。ぼくは少しこわかったけど、目をつぶってえいっ!と飛びのった。
目をあけると、ぼくはごみステーションに立っていた。目の前には、いつものグランドがひっそりとしている。外野の向こうを、朝一番のかもつ列車がとおりすぎていく。
足元がくすぐったいなと思ったら、ネコたちが、からだをすりよせていた。黒ネコにミケに……さっきまでユニフォーム着てたネコたち? 足を動かすと、にげていった。
(あれれ……)
ごみステーションのはしに、あったはずの青いポリバケツがなくなっていた。代わりに、こわれたトランポリンが置いてある。ちかよって見ると、ゴムのさけ目に、ちぎれた草とねこじゃらしが二、三本、はさまってゆれている。そして、そのおくに、ネコのぬいぐるみがコロンとおちていた。
ぼくはしゃがんで、そっと手をのばした。
「ごめん。すてちゃって……」
しばらくして、連休に父さんがプレゼントをもって帰って来た。新しいグローブだった。「新矢、あしたはキャッチボールしような」
「うん。父さん、野球部に入るって、野球がうまいだけじゃいけないんだよね」
「おっ、新矢。ちょっとの間にずいぶん、おとなになったじゃないか」
父さんは、うれしそうにビールを飲んだ。
「それに、新ちゃんたら、魚も食べるようになったのよ」
母さんも、ひさしぶりにうれしそうだった。
待ちに待った入部の日、ひかり町野球部のかんとくから、チームのぼうしと、『部員の心得』の書かれたプリントをわたされた。
「新ちゃん、いろいろ書いてあるわよ。ちこくをしない、大きな声でへんじをする、道具をだいじに……たいへんねえ」
母さんが感心している。ぼくは、つくえの本だなを見た。右はしに置いた、ネコのオレンジ色の目がウインクした気がした。
「うん。ぼく、野球部がんばるよ。そろばんも、ちゃんと行く。それと、ごみ出しは、これからもまかせて!」
ぼくはいつかまた、ネコの野球部と朝練習ができるんじゃないかなと思っている。
藤谷 久美子(ふじたに くみこ) |
短評 |
|---|



