| 第22回童話の部・優秀賞 |
腕白ママ
作/たきした ひろみ
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ばあちゃんが四月になくなってから、ママは無口になり、ずっと沈みこんでいる。大好きなそうじもしないし、パパやぼくにも、あれこれと、うるさく言わない。 |
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「そんなにあのことを、気に病んでたか」
じいちゃんは大きなためいきをついて、あのことについて説明をした。
ばあちゃんはなくなる前、ママのすすめるリハビリを「そんなことしとうない。早う死にたい」とことわったそうだ。
ママは「死にたいのなら、死んだらええ」
とばあちゃんをしかった。そのあと、まもなくばあちゃんは死んだ。
「ばあちゃんは、寝たきりでつらかったろうし、ママも遠いところを介護に通うて、疲れとっただろう」
ばあちゃんは首の骨の病気になり、手足が動かなかった。ママは大阪から三時間バスにのって、橋をわたり、四国まで週一回、ばあちゃんの介護にかよっていた。
わがままババア、なんていいながら、ママは十年近く、介護を休んだことはない。ぼくもパパも心配したくらい、がんばっていた。
「かわいそうに。ママはばあちゃんをしかったことで、自分をせめとるんだ。これは早いこと、なんとかせにゃいかんな」
「そうだよ、ママ、かわいそうだよ」
「よし、『じいちゃんがごはんも食べず、酒ばかりのんでばあちゃんのところに行きたいって泣いてる』とママに言うんだ」
じいちゃんは自信ありそうに言った。
じいちゃんの言ったように、ママに伝えるとママはぼくをつれて、じいちゃんの家に飛んで帰った。
「大丈夫?ごめんよ。わたし、じいちゃんのこと忘れてた」
ふとんの上におきあがったじいちゃんをのぞきこんで、ママが心配そうにいった。
「おお、来てくれたか。わしも長うない。おまえらの顔もこれで見おさめや」
じいちゃんは、日にやけて元気そうな顔で答える。ぼくはじいちゃんの仮病がばれないかと、はらはらした。
ママは窓をあけ、台所のそうじをはじめた。じいちゃんは小声で聞いた。
「どうだい、ママのようすは」
「いつもより元気だよ。それよりじいちゃん、ちょっとオーバーだよ」
「なにを言う。じいちゃんだって、ばあちゃんが死んでさみしかった。それより今のママには、大きな心配をさせたほうがええ。作戦はこれからや。いいか」
ぼくらはママに心配をさせて、元気にしようとしている。じいちゃんが言うには、逆療法ってことらしい。
夕食は、ばあちゃんがとくいだった、特別スタミナ料理だ。タマゴの黄身にすりゴマと白身の魚のさしみを入れたたれを、あつあつごはんにたっぷりとかける。
じいちゃんはおかわりまでして、汗をかいて食べた。演技ではなさそうだ。
「よかった。思ったより元気で」
ママはほんとに安心したのか、ペタンとすわりこんでいる。
「あとで冷えたスイカがほしいなあ」
「じいちゃん、病人だろ。いいかげんにしな」
ぼくの小声を聞いて、ママがちょっと、にこっとした。
つぎの朝、庭にむかった板の間で、ぼくとじいちゃんは将棋をしている。かぼちゃのたなを通って風がはいり、仏壇からばあちゃんの写真が、こっちを見ている。
じいちゃんがせんたくものをためこみ、家もほこりだらけにしていたので、ママは朝から大変だ。
「あんまりだよ。ママ疲れてんのに」
「なに、ママはむかしからそうじさせると、張り切るんや。今日のママはどうだ」
たしかにママは元気になっている。
「じいちゃんとせみとりにいっておいで」
ママがほうきを持って、庭に出てきた。
「ママもせみの昼寝をじゃまをしに行かんか」
じいちゃんがママをさそう。
「せみの昼寝って、なつかしいなあ」
ママがくすっとわらう。子どものころを思い出したのだろうか。
その夜、せみとりで疲れていたぼくは、夕食のあと、すぐねてしまった。ママとじいちゃんが話をしているけはいで、目がさめた。
「わしらはおまえが男だったら、ええ漁師になったのに、と思うとった。でも、ばあさんが病気になって、女の子でよかった、ありがたいとなんども話したもんだ」
「でもわたし、母さんにひどいこと言ったわ。あんなこと、言うつもりなかったのに」
ママは泣いているようだ。
(あ、せっかく元気になってたのに)
ぼくはぎゅっとこぶしをにぎった。
三日目の朝、作戦会議は浜の石垣の上だ。ママはばあちゃんのはかまいりに行った。
「ママ、泣いてたね」
「泣くのはええことじゃ。気分が変わる」
「ほんと?お医者さんはそんなこといわなかったよ」
「日にちも薬。生まれた土地も、おまえも、ママのええ薬なんや」
じいちゃんの言うことは、パパの言うこととちょっとずれてるけど、信じるしかない。
午前中は、ママをひとりにして、ぼくらはつりに行った。
つりから帰って、水浴びをしていると、ママが背中に水をかけてくれながら聞いた。
「じいちゃん、元気になったかしら」
「ママがいるもん、元気いっぱいだよ。でも、もうしばらく居てやろうね」
「でも、おまえの塾のこともあるし::」
「あ、それならぼく、ちゃんと宿題するから」
しかたがない、ぼくは宿題をはじめた。ママに言われないで、自分から勉強するなんて、ぼくじゃないみたいだ。
夜、じいちゃんにママのことを報告した。
「ふむ。おまえの塾の心配が出来りゃ、りっぱなもんだ。よし、あとはしあげだ」
じいちゃんは下駄箱の前でごそごそとさがしものをはじめた。
四日目、かぼちゃのたなのしたで、じいちゃんと昼寝をしていると、ママが赤いはなおのげたを持って、庭にきた。昨日じいちゃんが下駄箱から出したものだ。
「見て、こんなものがあったわ」
ママはなつかしそうにげたをなでた。
「ママは男の子にもまけん腕白もんで、カニふみの名人やったなあ」
「カニふみってなに?じいちゃん」
「カニをからかうんじゃ。將太はカニふみを知らんのか。最近の子どもは浜に出んから、カニも退屈してるだろ。よし、今夜は久しぶりにカニふみに行こう」
じいちゃんはうきうきしている。どうもママのためだけとは思えない。
食事のあと、三人でげたをはいて出かける。ぼくのゲタはママの子どものころの、赤いはなおだ。外は月あかりで、ぼおっと明るい。
「よーっ。今夜もいっぱい出てるな」
じいちゃんが波うちぎわに立って、うれしそうにさけぶ。ママも腕をふりまわしている。ぼくには何がはじまるのか訳がわからない。
「砂の上にカニがおるの見えるか?あれをげたでふむんじゃ」
「げっ、殺すの。それって、マズクない?」
「どうだか。ここのカニが簡単にふめるかの」
じいちゃんはにやにやしてる。砂浜にいるカニをおどかす遊びらしい。
「どわーっ」
じいちゃんの号令で、大人とは思えないバカな声をだしながら、ママはじいちゃんにまけないで、カニのむれへ突進した。砂の上のカニが大あわてで海にむかって逃げる。
ぼくもしかたなく、あとから砂の上を走りだした。げたが砂にめりこみ、体だけが先に進み、足がもつれて、砂にとびこむようにたおれた。
まわりはカニがいっぱい。大きなハサミを持ちあげ、横あるきに攻撃してくる。
「うわっママー、たすけて」
ぼくのひめいに、ママがかけよってきた。
「どんくさい子やな」
ぼくに喰いついたカニを、つかんでひきはなすママは、いきいきしたいつものママだ。
カニはなんどおどされても、砂浜に出てくる。ふまれても砂にもぐって逃げ、逃げながら反撃にでる。
「くそー、やったな」
気がつくとぼくも砂と格闘しながらカニを追いかけていた。このへんの子はむかしからこんなふうにカニと遊んでいたのだろう。
ママの携帯にパパから電話だ。
「うん、元気だったわ。わたし?ありがとう、だいじょうぶ。將太ァ、あしたパパがこっちに来るんだって」
ママがはずんだ声でいった。
「やった」
ぼくとじいちゃんは、砂の上でVサインをかわした。 おわり
たきした ひろみ |
短評 |
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