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日産 童話と絵本のグランプリ
第22回(2005年度)入賞作品
第22回童話の部・優秀賞 (※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

満月まんじゅう
作/上田 真湖

 そのむかし、ある町に、となりあわせた二軒のまんじゅう屋がありました。一軒は松屋。もう一軒は菊屋。どちらも何代もつづく、由緒あるまんじゅう屋です。
 松屋のあるじは与兵衛どん。菊屋のあるじは佐兵衛どん。ふたりとも負けずぎらいのがんこおやじで、顔をあわせてはいがみあっていました。
 店さきで、松屋の与兵衛どんが声をはりあげます。
「あまさひかえめ、つうの味。松屋、松屋、松屋のまんじゅうはいかがかな」


 菊屋の佐兵衛どんも、負けていません。
「あまいあまい、食べればとりこになるあまさ。菊屋、菊屋、菊屋のまんじゅうはいかがかな」
 そしてふたりは、火花をちらしてにらみあいました。
 このふたつのまんじゅう屋、実は、まんじゅうの味に大きなちがいがあったのでした。松屋に伝わるまんじゅうはあまさの少ない、さっぱり味。いっぽう、菊屋に伝わるまんじゅうはあまさのこい、ほっくり味。
「ふん。砂糖をたくさん入れればまんじゅうになるってわけじゃないんだ。まんじゅうには、味わいってのも必要なんだよ」
 与兵衛どんがこう言えば、
「あまくないまんじゅうに、食べる楽しみなんてあるものか。どうせ、砂糖をけちっているだけだろう」
と佐兵衛どんがこたえるしまつ。
 町のひとたちもよくわかったもので、口なおしをしたいときには松屋のさっぱりしたまんじゅうを、ひとやすみしたいときには菊屋のほっくりしたまんじゅうを食べることにしていました。
 というわけで、どちらのお店も繁盛していましたが、なにせ、何代にもわたって競いあってきたくせは、そう簡単にぬけるものではありません。
「菊屋を出しぬくいい方法はないものか」
 与兵衛どんはあずきを煮ながらたえず知恵をめぐらせていましたし、佐兵衛どんもまんじゅうをまるめながら、
「松屋を出しぬくいい方法はないものか」
と思案するのが日課になっていました。
 そんなおり、一枚の立て札が立てられました。
「なになに。病にふせっておられるとのさまの口にあうまんじゅうを献上したものに、ほうびをつかわす」
 与兵衛どんも佐兵衛どんも立て札を読んだとたん、とって返しました。おとなりを出しぬく絶好の機会がやってきたのです。
「味では菊屋に負けないのだから、とにかく、
目立つことじゃ。つまり、大きいことじゃ!」
 与兵衛どんはそうひらめいて、腕によりをかけ、自分の顔ほどもある、大きな大きなまんじゅうをつくりあげました。
 佐兵衛どんも、
「菊屋のまんじゅうのあまさはきっと、病のとのさまに喜んでもらえるはずじゃ。松屋よりさきにとのさまの目にとまるためには、大きくなくては!」
と、たっぷり時間をかけて、自分の顔ほどもある、大きな大きなまんじゅうをつくりあげました。
 さて、夜になり、そろそろ店をしめようと、与兵衛どんが店さきに出てきました。
 与兵衛どんはふと、菊屋のまんじゅうに目をとめました。月に照らされたまんじゅうたちはふっくら、つやつやとして、いかにもあまそうです。あまいまんじゅうとはいったい、どんな味がするのでしょうか。与兵衛どんは菊屋のまんじゅうを食べたことがありませんが、
「あまい」という言葉にはどこか、うっとりするような響きがありました。
(いっぺんでいいから、あまいまんじゅうというのを食べてみたいものじゃ)
 与兵衛どんの口の中に、じわりとつばがわいてきました。
 そこへ、佐兵衛どんが出てきました。
「おや、もう店じまいかい。松屋さんはおひまでよろしいねえ」
「へんっ」
 与兵衛どんは顔を赤くして、いそいそと店の中に入っていきました。
 佐兵衛どんはその後ろ姿を見送って、ふと、松屋のまんじゅうに目をとめました。整然とならべられたまんじゅうは、いかにもおっとりと、洗練されて見えます。あまさをひかえた上品な味とはいったい、どんな味なのでしょう。佐兵衛どんは松屋のまんじゅうを食べたことがありませんが、あまさたっぷりの、どちらかといえばあかぬけないまんじゅうに慣れた佐兵衛どんには想像もできない味であることは、まちがいありません。
(あまくないまんじゅうというものを、いっぺん食べてみたいものじゃ)
 佐兵衛どんののどが、くうっと、小さな音を立てました。
 佐兵衛どんはそんな思いをふりはらうように、何度か首をふって、のれんをしまいました。

 あくる日。与兵衛どんと佐兵衛どんは、競うように早足で城へとむかいました。城の前には、各地から集まったまんじゅう屋で行列ができています。
 ようやく、ふたりの番がきました。通された広間の奥で、とのさまが青い顔で床にふせっています。
 ふたりはたがいの顔を一べつすると、鼻たかだかに、まんじゅうを包みからとり出しました。
 ところが、なんとしたことでしょう!おとなりを出しぬくつもりが、どちらも申しあわせたように、顔ほどもある大きな大きなまんじゅうだったのですから。ふたりは、たちまちしぶい顔になりました。
「なんと。大きなまんじゅうじゃ」
 明るい声がしました。とのさまです。笑みをうかべてむっくり起き上がったかと思うと、ふたつのまんじゅうを興味深そうに見くらべて、まず松屋のまんじゅうを口に入れました。
「これはうまい。あまさだけでない、深い味わいがある」
「ありがとうございます。松屋自慢のまんじゅうにございます」
 与兵衛どんは佐兵衛どんをぬすみ見て、にやりと笑いました。
 つぎにとのさまは、菊屋のまんじゅうに手をのばしました。
「おお。これはあまい。なんともしあわせな味じゃ」
「ありがとうございます。このあまさが、菊屋の誇りにございます」
 佐兵衛どんは、得意げに与兵衛どんをちらと見ました。
「それぞれに、実においしいのだが」
 とのさまはしばらく思案顔で、ふたつのまんじゅうをかわるがわる見ていましたが、何を思ったか、ふたつをぽんと同時に、口の中に放りこみました。与兵衛どんと佐兵衛どんはおどろいて、口をぽかんとあけました。 「思ったとおりじゃ」
 とのさまは、満足そうにうなずきました。
「こうすると、ふたつの味のよいところが混じりあって、ますますおいしくなるのう。そなたたちも試してみよ」
 与兵衛どんも佐兵衛どんも、あわててふたつのまんじゅうを少しずつちぎり、同時に口の中に入れました。そのとたん、目からうろこが落ちたような気がしました。
「これはうまい」
 さっぱりとほっくりが混じりあった、絶妙の味が、じわじわ口の中にひろがります。
「佐兵衛どん。これからわしと一緒に、まんじゅうをつくらんか」
「そうしよう、与兵衛どん」
 佐兵衛どんはすぐさま賛成しました。
「菊屋と松屋のまんじゅうをたした、このおいしいまんじゅうをつくろう。店の名前はもちろん、『菊松屋』だな」
 与兵衛どんの目つきがけわしくなりました。
「『松菊屋』だ。松がさきにきまっておる」
「菊がさきじゃ。菊は松より小さいではないか。背の順じゃ」
「これこれ」
 とのさまはふたりをしずめ、すっくと立ち上がりました。さっきとは見ちがえるように顔色がよくなり、背すじもしゃんとのびています。
「ふたりのおかげで、わたしもすっかり元気になった。ほうびに、わたしが店の名をつけてよいか」
「ははあ」
 文句があろうはずはありません。ふたりは、ふかぶかと頭を下げました。
「この大きな大きなまんじゅうは、まるで満月のようじゃな。それに、見よ。わたしも満月のような笑顔になっておる。よって、まんじゅうの名を『満月まんじゅう』とする。そして、満月まんじゅうを売る店の名は『満月屋』じゃ。これからはふたりとも、満月のように、円満にやるのじゃ」
 ふたりはしきりに照れながら、そっと、顔を見あわせました。

 さて。
 この満月屋の満月まんじゅうは、大評判をよびました。何がすごいかって、食べると魔法がかかったみたいに、笑顔になってしまうというのです。
 その証拠に、ほら、ごらんなさい。今日も、与兵衛どんと佐兵衛どんはなかよく店さきに立って、にこにこ、にこにこしていますよ。

上田 真湖(うえだ まこ)
38歳 自営業 大阪府大阪市
<受賞のことば>
 みかちゃん、乾さん、かおりちゃん、父と母、いおりくん、そしてあなた。わたしを支えつづけてくれる、無数の力に感謝します。すばらしい賞をありがとうございました。

短評
 いがみあっている二軒が仲よく満月饅頭を作るようになったいきさつが、気持よい流れで描かれています。この作品のほどのよさは、さっぱり味とほっくり味の重なったものですね。楽しい舞台を見せてもらって拍手です。(あまん きみこ)


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