| 第20回童話の部・大賞 |
はいけい、たべちゃうぞ
作/福島 サトル
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ぶたのズーフは、いそがしい町を出て、電車とバスをのりついでから、歩いて山をこえたところにある、森のはずれの小さな家にひっこしました。 |
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ある日、ズーフは畑で汗をふきながら、ふと思いました。
「うーん。なにか、足りないなあ」
そして、ぽんと手をたたきました。
「そうだ。友だちだ」
ズーフは、小さな銀色のゆうびんうけを作ると、それを、庭の入り口の横にあるかしの木に、しっかりとくくりつけました。
「さいしょは、だれだろう」
ズーフは毎日、わくわくしながら、ゆうびんうけをのぞきました。けれど、いつも入っているのは、まいごのこがね虫や落ち葉ばかりで、手紙はちっとも来ません。ズーフは、がっかりしました。
あらしのよく朝でした。いつものようにズーフは、ごはんの前に、ゆうびんうけを開けました。灰色のふうとうが、入っていました。
ふうとうには、「森のはずれみずうみひがし、赤いやねのぶたさま」とあて名がありました。思わずズーフは、かた足でジャンプしました。
「やあ、とうとう来たぞ」
スキップしながら、いそいで家にもどると、台所のテーブルで、手紙を読みました。
「はいけい、ぶたさま。
お話を作ったので、読んでください。
〈森のはずれに、若いぶたが、ひっこして来ました。腹ぺこのおおかみが、それを見つけました。舌なめずりをすると、ひさしぶりに、やすりを出して、爪をとぎはじめました〉
お話の続きを考えてください。そして、お返事をください。
丘の上のクロアシより
ついしん。返事くれないと、食べちゃうぞ」
ズーフは、いそいで家中のかぎをかけました。それが終わると、ベッドにもぐりこんで、一日中、ふるえていました。おおかみが、手紙をよこしたのに、ちがいありません。
夕方になって、ようやくズーフは、ベッドからはい出しました。そして、いやいや返事を書きはじめました。だって、そうしなければ、食べられてしまうのですから。
「はいけい、丘の上のクロアシさま。
とてもおもしろいお話ですね。続きを考えたので、読んでください。
〈ぶたは、家中にかぎをかけました。それから、庭のまわりに、がんじょうなさくを作りました。これなら、だれも入れません〉
赤いやねのぶたより」
ズーフは、手紙を森の中のポストに出して、ほっと胸をなでおろしました。次の日は、一日がかりで、庭のまわりに木のくいを打って、じょうぶな高いさくを作りました。
次の次の朝、ゆうびんうけには、また灰色のふうとうがありました。
「お返事ありがとう。おかげで、お話を続けられます。楽しいてんかいになりそうです。
〈おおかみは、ぶたのさくを見て、ふふんと鼻で笑いました。あんなもの、ひとっとびだ。家のかぎなんぞ、おれさまの牙と爪にかかれば、紙くずどうぜんだ〉
続きを考えて、また、お返事をください。くれないと、食べるぞ。クロアシより」
その日、ズーフはまた、ベッドでふるえてすごしました。おそろしくて、しかたありません。でも、返事を出さないわけには、いかないのです。お話の続きを書きました。
「ずいぶん、強いおおかみですね。
〈ぶたは、遠くにひっこすことにしました。おおかみが追いかけて来られない、とてもとても遠くです〉ぶたより」
ズーフはすぐに、にもつをまとめて、ひっこしのじゅんびを始めました。
家を出ようとした日の朝、返事が来ました。
「〈おおかみは、いつでも、ぶたを見はっています。だから、山をこえる時、かならずとびかかってやろうと、決めていました。ひさしぶりにやすりを出すと、歯をとぎはじめました。だって、苦労もせずに育った、とても丸々とした、ぶただったのですから〉返事がなければ、すぐ食べます。クロアシより」
にもつを投げ出して、ズーフは、床にすわりこんでしまいました。いったい、どうすれば、いいのでしょう。一日考えて、少しやけになって、続きを、書きはじめました。
〈ぶたの家には、鉄砲を持った猟師が十人、まちかまえています。ぶたが、やとったのです。おおかみが来たら、すぐにうち殺してしまうでしょう。鉄砲のほかにも…〉
そこまで書いて、止めました。なんとなく、いやな気持ちになったのです。
〈それはうそでした。でも本当のところ、ぶたは、おおかみが思っているほど、丸々としてはいませんでした。そんなに、おいしくもないでしょう。
ぶたは、生まれつき体がじょうぶではありませんでした。だから、町でみんなといっしょにくらすのは、とても大変です。たくさんのぶたの中にいても、ひとりぼっちなことは、けっこうあるのです。
おおかみは、どうでしょうか。仲間がいるのでしょうか。それなら、ぶた一頭だけでは、たりないにちがいありません〉
一週間もたってから、返事が来ました。
「〈おおかみは、ずっと長いあいだ、ひとりきりでくらしてきました。だから、ぶた一頭でもじゅうぶんなのです〉クロアシより」
手紙に「返事をくれないと、食べる」と、書いていないことに、ズーフは気づきました。
でも、ズーフは、お話の続きを書きました。
「〈おおかみは、よく考えました。そうすると、さいしょから、ぶたを食べるつもりなんか、なかったことに気づきました。だれかに、手紙を出したかったのです。ぶたは、ちょうど、だれかの手紙をまっていたところでした。だから、手紙を見つけたときは、とても喜びました〉ぶたより」
クロアシから、返事が来ました。
「〈森で一番強いのは、おおかみです。おおかみは、ぶたを食べます。でも、勇気のあるりっぱなおおかみは、かってに食べたりはしません。
おおかみは、毎日、ぶたを見ていました。家にペンキをぬったり、湖のまわりをさんぽしたり、自分の畑のやさいでサラダを作ったり、とても楽しそうだと思いました。
おおかみだったら、かならず返事がもらえるはずでした。でも、思ったより、楽しくありません。おおかみは、ぶたなんかより、もっとおいしそうな獲物を、さがしに出かけることにしました〉クロアシより」
ズーフは、さくのくいを、全部ひっこぬきました。また、湖が見えるようになると、ズーフは、庭にいすを出して、ずっとながめていました。夜、月がのぼると、クロアシのお話の続きを、書きはじめました。
「〈おおかみは、遠くへ旅に出ました。勇かんで誰よりも強いおおかみは、いつでも、ぼうけんを求めているのです〉」
そこで少し迷ってから、ズーフは、思い切って続きを書きました。
「〈おおかみは、勇かんなたましいを、ほんの少し、残していきました。それは、おおかみより、ずっと小さな生きものの姿をしていました。それでも、おおかみと同じ勇気を持っているのです。
ぶたは、その生きものに会って、話したいと思いました。だから日曜日の朝、丘の上で待ってみることにしました〉」
返事は、来ませんでした。
日曜が、来ました。
朝もやが晴れると、丘の下の方に、湖が鏡みたいに光って見えました。のぼり続けたズーフは、すっかり、息をきらしていました。
丘のてっぺんの、くるみの木の下に、ねずみににた、茶色の動物が待っていました。
やまねでした。やまねは、木の枝とつるで作った、小さな車いすに座っていました。
ズーフがかた手を上げて、あいさつしました。「クロアシだね」
クロアシは、ぶどうみたいな目で、ズーフを見上げました。すぐに、目をふせて、
「おこってる?」と小さな声で言いました。
ズーフは、首をふりました。
「ううん。会ってみたかったんだ」
朝の光が、射しこんで来て、クロアシはまぶしそうに、ぱちぱちとまばたきしました。
「外へは、あんまり出ないんだ」
「うちへおいでよ。湖のすぐ近くなんだ。畑もあるし」
「でも、ぼく、なんにもできないよ」
「できるさ」とズーフが言いました。
クロアシが、顔を上げました。「本当?」
「お話の続きを、いっしょに考えよう」
「でも」
「なんだい」とズーフが聞きました。
クロアシが、照れくさそうに笑いました。
「もう少し、ちゃんと考えなきゃね」
そうして、いっしょに丘を下って行きました。とちゅう、クロアシが、思い出したようにたずねました。
「でも、ちょっとは、こわかった?」
ぶたは前をむいたまま、返事をしました。
「うん。…ちょっとはね」
(おわり)
福島 サトル(ふくしま さとる 本名・福島 聡) |
短評 |
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