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日産 童話と絵本のグランプリ
第20回(2003年度)入賞作品
第20回童話の部・優秀賞一席
(※掲載している作品は受賞時点のものです。出版作品とは異なる場合があります。)

はいけい、たべちゃうぞ
作/福島 サトル

 ぶたのズーフは、いそがしい町を出て、電車とバスをのりついでから、歩いて山をこえたところにある、森のはずれの小さな家にひっこしました。
 ズーフは、まず、ペンキで、家のやねを赤く、かべを黄色に、まどのまわりを空色にぬりました。それから庭に小さな畑を作って、やさいを育てはじめました。
 近くの湖からは、気もちのいい風が、吹いてきます。町みたいに、にぎやかではありませんが、さんぽをしたり、畑のやさいをサラダにして食べたりするだけで、しばらくは、とても楽しい毎日でした。


 ある日、ズーフは畑で汗をふきながら、ふと思いました。
「うーん。なにか、足りないなあ」
 そして、ぽんと手をたたきました。
「そうだ。友だちだ」
 ズーフは、小さな銀色のゆうびんうけを作ると、それを、庭の入り口の横にあるかしの木に、しっかりとくくりつけました。
「さいしょは、だれだろう」
 ズーフは毎日、わくわくしながら、ゆうびんうけをのぞきました。けれど、いつも入っているのは、まいごのこがね虫や落ち葉ばかりで、手紙はちっとも来ません。ズーフは、がっかりしました。
 あらしのよく朝でした。いつものようにズーフは、ごはんの前に、ゆうびんうけを開けました。灰色のふうとうが、入っていました。
 ふうとうには、「森のはずれみずうみひがし、赤いやねのぶたさま」とあて名がありました。思わずズーフは、かた足でジャンプしました。
「やあ、とうとう来たぞ」
 スキップしながら、いそいで家にもどると、台所のテーブルで、手紙を読みました。
「はいけい、ぶたさま。
 お話を作ったので、読んでください。
〈森のはずれに、若いぶたが、ひっこして来ました。腹ぺこのおおかみが、それを見つけました。舌なめずりをすると、ひさしぶりに、やすりを出して、爪をとぎはじめました〉
 お話の続きを考えてください。そして、お返事をください。
                  丘の上のクロアシより
 ついしん。返事くれないと、食べちゃうぞ」
 ズーフは、いそいで家中のかぎをかけました。それが終わると、ベッドにもぐりこんで、一日中、ふるえていました。おおかみが、手紙をよこしたのに、ちがいありません。
 夕方になって、ようやくズーフは、ベッドからはい出しました。そして、いやいや返事を書きはじめました。だって、そうしなければ、食べられてしまうのですから。
「はいけい、丘の上のクロアシさま。
 とてもおもしろいお話ですね。続きを考えたので、読んでください。
〈ぶたは、家中にかぎをかけました。それから、庭のまわりに、がんじょうなさくを作りました。これなら、だれも入れません〉
                                               赤いやねのぶたより」
 ズーフは、手紙を森の中のポストに出して、ほっと胸をなでおろしました。次の日は、一日がかりで、庭のまわりに木のくいを打って、じょうぶな高いさくを作りました。
 次の次の朝、ゆうびんうけには、また灰色のふうとうがありました。
「お返事ありがとう。おかげで、お話を続けられます。楽しいてんかいになりそうです。
〈おおかみは、ぶたのさくを見て、ふふんと鼻で笑いました。あんなもの、ひとっとびだ。家のかぎなんぞ、おれさまの牙と爪にかかれば、紙くずどうぜんだ〉
 続きを考えて、また、お返事をください。くれないと、食べるぞ。クロアシより」
 その日、ズーフはまた、ベッドでふるえてすごしました。おそろしくて、しかたありません。でも、返事を出さないわけには、いかないのです。お話の続きを書きました。
「ずいぶん、強いおおかみですね。
〈ぶたは、遠くにひっこすことにしました。おおかみが追いかけて来られない、とてもとても遠くです〉ぶたより」
 ズーフはすぐに、にもつをまとめて、ひっこしのじゅんびを始めました。
 家を出ようとした日の朝、返事が来ました。
「〈おおかみは、いつでも、ぶたを見はっています。だから、山をこえる時、かならずとびかかってやろうと、決めていました。ひさしぶりにやすりを出すと、歯をとぎはじめました。だって、苦労もせずに育った、とても丸々とした、ぶただったのですから〉返事がなければ、すぐ食べます。クロアシより」
 にもつを投げ出して、ズーフは、床にすわりこんでしまいました。いったい、どうすれば、いいのでしょう。一日考えて、少しやけになって、続きを、書きはじめました。
〈ぶたの家には、鉄砲を持った猟師が十人、まちかまえています。ぶたが、やとったのです。おおかみが来たら、すぐにうち殺してしまうでしょう。鉄砲のほかにも…〉
 そこまで書いて、止めました。なんとなく、いやな気持ちになったのです。
〈それはうそでした。でも本当のところ、ぶたは、おおかみが思っているほど、丸々としてはいませんでした。そんなに、おいしくもないでしょう。
 ぶたは、生まれつき体がじょうぶではありませんでした。だから、町でみんなといっしょにくらすのは、とても大変です。たくさんのぶたの中にいても、ひとりぼっちなことは、けっこうあるのです。
 おおかみは、どうでしょうか。仲間がいるのでしょうか。それなら、ぶた一頭だけでは、たりないにちがいありません〉
 一週間もたってから、返事が来ました。
「〈おおかみは、ずっと長いあいだ、ひとりきりでくらしてきました。だから、ぶた一頭でもじゅうぶんなのです〉クロアシより」
 手紙に「返事をくれないと、食べる」と、書いていないことに、ズーフは気づきました。
 でも、ズーフは、お話の続きを書きました。
「〈おおかみは、よく考えました。そうすると、さいしょから、ぶたを食べるつもりなんか、なかったことに気づきました。だれかに、手紙を出したかったのです。ぶたは、ちょうど、だれかの手紙をまっていたところでした。だから、手紙を見つけたときは、とても喜びました〉ぶたより」
 クロアシから、返事が来ました。
「〈森で一番強いのは、おおかみです。おおかみは、ぶたを食べます。でも、勇気のあるりっぱなおおかみは、かってに食べたりはしません。
 おおかみは、毎日、ぶたを見ていました。家にペンキをぬったり、湖のまわりをさんぽしたり、自分の畑のやさいでサラダを作ったり、とても楽しそうだと思いました。
 おおかみだったら、かならず返事がもらえるはずでした。でも、思ったより、楽しくありません。おおかみは、ぶたなんかより、もっとおいしそうな獲物を、さがしに出かけることにしました〉クロアシより」
 ズーフは、さくのくいを、全部ひっこぬきました。また、湖が見えるようになると、ズーフは、庭にいすを出して、ずっとながめていました。夜、月がのぼると、クロアシのお話の続きを、書きはじめました。
「〈おおかみは、遠くへ旅に出ました。勇かんで誰よりも強いおおかみは、いつでも、ぼうけんを求めているのです〉」
 そこで少し迷ってから、ズーフは、思い切って続きを書きました。
「〈おおかみは、勇かんなたましいを、ほんの少し、残していきました。それは、おおかみより、ずっと小さな生きものの姿をしていました。それでも、おおかみと同じ勇気を持っているのです。
 ぶたは、その生きものに会って、話したいと思いました。だから日曜日の朝、丘の上で待ってみることにしました〉」
 返事は、来ませんでした。
 日曜が、来ました。
 朝もやが晴れると、丘の下の方に、湖が鏡みたいに光って見えました。のぼり続けたズーフは、すっかり、息をきらしていました。
 丘のてっぺんの、くるみの木の下に、ねずみににた、茶色の動物が待っていました。
やまねでした。やまねは、木の枝とつるで作った、小さな車いすに座っていました。
 ズーフがかた手を上げて、あいさつしました。「クロアシだね」
 クロアシは、ぶどうみたいな目で、ズーフを見上げました。すぐに、目をふせて、
「おこってる?」と小さな声で言いました。
 ズーフは、首をふりました。
「ううん。会ってみたかったんだ」
 朝の光が、射しこんで来て、クロアシはまぶしそうに、ぱちぱちとまばたきしました。
「外へは、あんまり出ないんだ」
「うちへおいでよ。湖のすぐ近くなんだ。畑もあるし」
「でも、ぼく、なんにもできないよ」
「できるさ」とズーフが言いました。
 クロアシが、顔を上げました。「本当?」
「お話の続きを、いっしょに考えよう」
「でも」
「なんだい」とズーフが聞きました。
 クロアシが、照れくさそうに笑いました。
「もう少し、ちゃんと考えなきゃね」
 そうして、いっしょに丘を下って行きました。とちゅう、クロアシが、思い出したようにたずねました。
「でも、ちょっとは、こわかった?」
 ぶたは前をむいたまま、返事をしました。
「うん。…ちょっとはね」
(おわり)

福島 サトル(ふくしま さとる 本名・福島 聡)
40歳 会社員 埼玉県川越市
<受賞のことば>
 子どものころ、体が弱くてひとりで家にいることが多くありました。そんなときでも寂しさを感じないですんだのは、教員だった母が借りてきてくれたたくさんのお話のおかげです。
いつもインスピレーションを与えてくれる妻と家族の動物たち、職場の仲間、友人たちに心から感謝します。本当にありがとう。

短評
 お互いが相手をほんとうにはよく知らないまま手紙のやりとりを続けていくというストーリー展開にはスリルがあり、面白いと思いました。ただ、それを支える細部をもっとしっかりみつめてほしかった。結末を生かすためにも。(松岡 享子)


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