| 第19回童話の部・優秀賞 |
はるおさんの春までの仕事
作/池田 友和
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「そうですか。わかりました。はい、どうも。ありがとうございました」 |
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いいかけて、はるおさんが視線を押しあげたときです。足もとのマンホールを横切って、子ねずみがちょろちょろとかけぬけていくのが目にとまりました。
ねずみは、古ぼけた商店のガラス戸の前で、行儀よくぴたりと立ち止まります。すると、まるで自動ドアみたいに、ねずみ一ぴきぶんのすきまが開きました。ねずみはなかへとはいっていきます。
「あれ、まあ……」
はるおさんは、その光景をぽかんと見つめていました。頭をかきかき、思いだします。
そういえば、はるおさんは以前にも、このお店へいぬがはいっていくのを見かけたことがありました。いぬが入口でおすわりをすると、ガラガラとガラス戸が開いたのです。もっともそのときは、「きっと飼い主があけたのだろう」と、あまり気にもとめませんでしたが。
はるおさんが立ちつくしていると、やがて子ねずみがでてきました。背中に、ハンカチほどのふろしきづつみをしょっています。いぬやねこならばまだしも、ねずみがふろしきをしょっているというのは、どう考えてもちょっぴり変です。
「ツ、キ、ノ、ワ、商、店?」
軒にかけられた看板の文字を、はるおさんはたどるように読みあげました。なんだか不思議なひびきです。さらにはるおさんが目をこらすと、「ツキノワ商店」という文字の上には、小さく「なんでも屋」と添えられていました。
「なんでも屋? こりゃあ、めずらしい……」
はるおさんは、外からのぞくだけのつもりで、ガラス戸へと近寄っていきました。入口に立っ
て、まばたきをひとつしたときです。ピシッときしむような音にあわせて、ねずみのときと同じように、ひとりぶんの戸が勝手に開きました。
なつかしい気分になったのは、お香のかおりがしたせいです。店内はうす暗くて、雨あがりの朝のような、しっとりとした静けさにつつまれていました。はるおさんは、その心地よさにさそわれて、そうっと足をふみいれてみます。
はるおさんが見たかぎり、ツキノワ商店の品ぞろえは、かなりおそまつなものでした。野球のグローブ、ゴム長ぐつ、テレビのリモコン、アルコールランプ、自転車の前かご、地球儀……。なんでも置いているというだけであって、なんでもそろうお店ではないようです。
「いらっしゃい」
とつぜんボサボサした声がとんできたので、はるおさんははっとしてとびのきました。
「くまっ!」
そうです。くまだったのです。ツキノワ商店のあるじは、小柄でもっさりとした感じのつきのわぐまなのでした。
「くまじゃ、悪いかね?」
「い、いいえ。とんでもない!」
とっさにはるおさんは打ち消しましたが、くまのほうはいたって平気な顔をしています。おこったようすもありません。うつろなまなざしで、じいっとはるおさんを見つめていました。
「なにをお探しですか?」
あくびをかみころしながら、だしぬけにくまがきいてきました。
「いや。べつになにも……」
はるおさんが首をふると、くまは不服そうに口をまげました。
「なにも、かくすことはないでしょう。わたしには、ちゃんとわかるんです。探しものをしている顔は……」
くまがいって、はるおさんの瞳をのぞきこみました。
「さあ、おっしゃってください。そろばんですか? それとも、ポリバケツ? あっ、そうそう。新しいはえたたきがはいりましてねえ……」
そこまでしゃべって、くまは話がそれはじめたことに気づいたのか、ゴホンとせきばらいをしました。そして、しきりなおすようにいったのです。
「さあ、おっしゃいなさい。なにをお探しですか?」
「し、仕事です……」
返答にこまって、はるおさんはこんなふうにいいました。実際、はるおさんの探しものといったら、それくらいしかなかったのです。いってみれば、はるおさんにとってこのこたえは、くまを納得させるためのいいわけのようなものでした。
「ほう!」
ところが、くまはなぜかうれしそうに、いすをけたてて立ちあがりました。めいっぱいのびあがって、毛むくじゃらの体をのりだしてきます。
「それ、それ」
鼻息もあらく、くまはしきりにはるおさんのうしろを指さしました。いきおいに押されて、はるおさんは思わずふり返ります。
見ると、入口に近いかべのすみっこに、こんなはり紙がしてありました。
お店番 募集
期間 春、あたたかくなるまで
「これ、なんですか?」
向きなおってはるおさんがきくと、くまは上機嫌にいいました。
「募集といったら、募集です」
くまのこたえは、こたえになっていませんでした。ただ、ほこほことわらっているばかりです。
「これが、そこのガラス戸のかぎです」
くまが、ぽんと台の上にかぎをのせました。「わたしは、左の部屋でねむりますから、あなたは右の部屋をお使いください。台所やふろ、それから冷蔵庫のなかのものも、好きに使ってけっこうです」
「はあ……」
はるおさんのとまどいをよそに、くまはにこにこしています。つづけて、ひきだしからノートを取りだしました。
「売っている商品のリストは、ぜんぶここにのっています。お給料は、売り上げの半分ということでいかがかな? なあに、都会の動物たちはねえ、あんがい金持ちなんですよ」
くまは、そこまで早口にいってしまうと、ふらふらと奥の部屋へ歩きだしました。そして、ふすまに手をかけたところで、ふり返ってさけんだのです。
「なにか、ご質問は?」
「あの……」
はるおさんは、おずおずとたずねました。
「わたしのような者でも、本当にやとっていただけるのでしょうか?」
するとくまは、体をゆすってわらいながら、おおらかにいいました。
「条件が、ただひとつ。冬眠をしない、ということです」
それっきり、くまは部屋にこもってしまい、はるおさんがいくら呼んでも、二度と顔をだしてはくれませんでした。
はるおさんの春までの仕事は、こうして決まったのでした。
池田 友和(いけだ ともかず) |
短評 |
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