| 第19回童話の部・優秀賞 |
ぼくとお兄ちゃんのゆめパジャマ
作/束原 美佐
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ぼくの名前は、アキオ。秋に生まれたからなんだって。ぼくには、三つ年上のお兄ちゃんがいる。名前は、ナツオ。夏に生まれたからなんだって。 |
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もちろん、それはお兄ちゃんのおさがりだっ
た。緑のストライプ地に、ゾウ、カバ、キリン、ライオン、ダチョウ、シマウマ、いっぱい動物の絵がついている。お兄ちゃんのおさがりだってことをのぞけば、ぼくはこのパジャマをけっこう気に入った。
「お、アキオ、そのパジャマ着るのか?」
お兄ちゃんは、パジャマを見て、にやっと笑った。なんで笑うのさ? ぼくは返事もせずに、つんとそっぽをむいた。
その夜、ぼくは、そのパジャマを着て寝た。
夢の中で、ぼくはアフリカの草原に立っていた。草原の真ん中に、長い横断歩道がのびている。まっすぐ歩いていくと、とつぜん、目の前にシマウマがあらわれた。
シマウマが、ぼくに向かって言った。
「やあ、ひさしぶりだね。元気だった?」
ひさしぶりと言われても、ぼくには、シマウマの知り合いなんていない。
するとシマウマは、ぼくの顔と、ぼくの着ているパジャマをじっと見比べながら言った。
「ナツオだろ? だって、そのパジャマ……」
どうやら、シマウマはお兄ちゃんの知り合いらしい。ぼくをお兄ちゃんとまちがえたみたいだ。
「ちがうよ。ぼくは、ナツオの弟のアキオ」
ぼくは、わざとつっけんどんに答えた。
「ふうん、そうか。ナツオの弟のアキオか」
シマウマはそう言いながら、ぼくの顔をまたじろじろと見た。するとそこへ、どっしどっしと音を立てながら、ゾウがやって来た。
「やあ、ナツオ! 久しぶりだね」
どうやら、ゾウもお兄ちゃんの知り合いらしい。そしたら今度は、ライオンがやって来て、また言った。
「わあ、ナツオじゃないか!」
それからも、カバにダチョウにキリンと次々にやってきて、みんなぼくをお兄ちゃんとまちがえた。
「だから、ナツオじゃなくて、弟のアキオ!」
ぼくは、うんざりしながら、何度も同じ言葉をくり返した。どうやらぼくは、パジャマといっしょに、夢までお兄ちゃんのおさがりをもらってしまったらしい。
「ねえ、ナツオの弟のアキオ。いっしょに遊ぼうよ」
ライオンが言った。ぼくは、心の中で(ナツオの弟のってつけるのはやめてよ)と思った。
「ねえ、ねえ、あれやろうよ。だるまさんがころんだ」
カバがそう言って、まずジャンケンで鬼を決めることになった。
「ジャンケンポン!」
ぼくは、グーを出した。あれ、動物たちは……???
すると、ライオンが大声で叫んだ。
「残念でした。アキオの負け! アキオが鬼だよ」
え? ぼく負けたの? ライオンがパーをだしたのは、まだなんとなくわかったけど、カバやシマウマは何を出したのか、さっぱりわからなかった。ゾウは鼻で、ダチョウは羽でジャンケンするんだから、かなりいいかげんだ。
しかたなく鬼になったぼくは、ちょっとやけくそで叫んだ。
「だ・る・ま・さ・ん・が、ころんだ!」
ふりかえると、動物たちはぴくりとも動いていない。でも、ちゃんと前には進んでいる。
「だるまさんが、ころんだ」
ぼくは、だんだん本気になってきた。でも、何度ふりかえっても、体の大きなゾウやカバでさえ、ちゃんとぴたっと止まっている。
そして、五回目の「だるまさんがころんだ」を叫ぼうとしたその時だった。ゾウの鼻が、ぼくの肩にとんとタッチした。あわててふりかえると、みんなとっくに遠くへにげてしまったあとだった。あまりのにげ足の速さに、追いかけることさえできなかった。
「アキオの負けだ」
一番遠くまでにげたダチョウが、とくいそうに言った。
「ナツオは、もうちょっとすばしっこくて、足も速かったのにね」
キリンの言葉に、ぼくはむっとした。するとゾウが、鼻でぽんぽんとぼくの肩をたたいた。
「まあまあ、アキオ、そんなにむくれないでさ。今度は歌でも歌おうよ」
ゾウの鼻が、マイクみたいにぼくの顔の前へ、にゅっとのびた。
「歌うのは、もちろんアキオ!」
「えー、ぼく? いやだよ」
ぼくが、ぶんぶん首を横にふると、
「だって、ナツオは歌ってくれたよ」
ゾウの目はみるみるうるんできて、大つぶのなみだが、今にもこぼれおちそうになった。
「わかったよ。歌うから、もう泣かないで」
ぼくは、しかたなく、ゾウのために歌った。
ぞうさん ぞうさん おはながながいのね
そうよ かあさんも ながいのよ
ゾウはとっても喜んだ。でも、他の動物たちは、おもしろくなかったみたいだ。
「ゾウくんばっかりずるいよ! カバの歌も歌ってよ!」
「たまには、キリンの歌もききたい!」
「そうだ! ライオンの歌だって!」
「それなら、ダチョウの歌も!」
そんなこと言われてもなあ。ぼくがこまっていると、ひとりだけだまっていたシマウマが、ウォッホンとせきばらいをひとつした。
「みんな、静かに! ちょっとこっちに集まってくれよ」
シマウマは、動物たちを集めると、何やらひそひそ相談を始めた。
「ごめんごめんアキオ、次はしりとりでもしようかってことになったんだ」
ぼくと動物たちは、輪になって集まった。
「じゃあ、動物の名前のしりとりだよ。ぼくからいくね、ブタ!」と、まずシマウマが言っ
た。
「ター、タヌキ!」と、ダチョウが言った。
「キー、キツネ!」と、カバが言った。
「ネ、ネコ!」とキリンが言った。
「コココ、コアラ!」とゾウが言った。
次は、ぼくの番だ。
「ラ、ラ、ラ」ぼくは、つぶやきながら、となりのライオンの顔を見た。そして、思わず言ってしまったんだ。
「ラ、ライオン!」
しまったと口をおさえても、おそかった。動物たちは、ぷっとふき出して、いっせいに笑い始めた。シマウマは歯をむき出して、カバは大口を開けて、ライオンは地べたを転げまわって大笑いしている。
「あはは、ひっかかった!」
「イヒヒ、やっぱりね、そう言うと思ったよ」
はずかしさとくやしさが、どっと込み上げてきた。もう、がまんのげんかいだ。
「いいかげんにしてよ! みんなでぼくをバカにして。どうせ、ぼくは、お兄ちゃんのおさがりばっかりで、足だってお兄ちゃんよりおそいし、頭だって悪いよ。なんでもお兄ちゃんには勝てないんだ」
なみだが、勝手にぽろぽろとこぼれてきて、目の前がかすんだ。気がつくと、動物たちが心配そうな顔をして、ぼくをかこんでいた。
「そんなことないよ。アキオはナツオに負けてなんかいないよ」シマウマが言った。
「そうだゾウ。アキオの歌はとっても心がこもってたゾウ」ゾウが言った。
「アキオは、ぼくたちがジャンケンでずるしても、おこらなかったよ」カバが言った。
「そうだよ、アキオにはアキオのいいところがいっぱいある」
「ぼくたちみんな、アキオのこと大好きだよ」
ダチョウも、キリンも言った。
「それに、ぼくたちがさっきあんなに笑ったのは、べつにアキオをバカにして笑ったわけじゃないんだ。ナツオと同じだったからさ。ナツオも、ぼくを見て言ったんだ。『ライオン!』ってね」
ライオンが、そう言って、にやりと笑った。
「え、お兄ちゃんも? お兄ちゃんもライオンって言ったの?」
「そうだよ、アキオもナツオと同じだったから、やっぱり兄弟って似てるなあと思って、笑ったのさ」
なあんだ。そうだったのか。お兄ちゃんも「ライオン」って言ったのか……。ぼくは、一気に体の力がぬけてしまった。そしたらなんだか急におかしくなってきて、アッハッハッハと声に出して笑ってみた。ライオンも、ゾウも、シマウマも、キリンも、カバも、ダチョウも、みんないっしょに笑った。笑いすぎて、お腹が痛くなるほど笑った。
「また来るね!」
ぼくは、みんなに約束した。
「いつでも待ってるからね。アキオ」
ゾウの姿が、小さな豆つぶみたいになって、やがて見えなくなるまで、ぼくは何度もふりかえって手をふった。草原の真ん中の横断歩道を歩きながら、ぼくは思った。今度は、お兄ちゃんといっしょに来たいなって。
束原 美佐(つかはら みさ) |
短評 |
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